#21.
私と先輩が仲直りして早3か月が過ぎようとしていて、
気が付けば先輩の入学式も、
私の進学もある程度終わった時期に入った。
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私は・・・2年に上がり双葉や須永君とは同じクラスになれたものの、
環とは残念ながらクラスが離れてしまった。
だから1年の時ほど一緒にいる時間は減ったけど女子3人で合わせて時々屋上でお昼ご飯を一緒にしたり、
部活がない放課後や週末に一緒に過ごす時間が前よりも増えた。
「花!聞いたよ、3年の先輩に告白されたんでしょ?」
「ーーー流れてくるの早くない?(笑)」
環はかなりの情報通で私が告白されたことはもちろん、
色んな人の情報を手にしている。
「男バスキャプテンの友達だって言ってたからさ(笑)みんな樹先輩が卒業したから狙い始めたのかな(笑)ライバルは消えたみたいな?(笑)」
環との会話に苦笑いで返事をしたけど、
私は二年に上がってから自分で言うのもおかしな話だけどモテブームが来ているようだ。
進学して早々、クラスの男子に公開告白をされたーーー・・・。
そして即お断りをして、ある意味ネタとなった。
次に告白されたのは別のクラスの男子、この人も丁寧にお断りをした。
そう・・・名前も知らない初対面に近い男子から告白されることが多かった。
今回の1つ上の先輩も同じく名前どころか存在すらも知らなかった人。
私に告白する罰ゲームでもしているのかなって最初は疑ったんだけど、
何かそんな感じもしなくて、
私は自分なりの誠意で思わせぶりな態度を取ることもなくただお断りした。
「樹先輩には告白されたりするときって言ってるの?」
「えぇぇ、言わないよ・・・。逆に先輩だってすごくモテてるのに言って来ないよ。」
「そんなもんか・・・」
「まぁ私が不安になるって先輩は分かってるから何も言わないんだと思うんだけどね。」
「でももうすぐデビュー戦があるんでしょ?須永がさっき言ってた!行くの?」
「行く予定、一緒に行かない?」
「ーーーいく!」
私もこの前、先輩からの電話でこのことを耳にしたばかり。
環たちを誘うのは前提だったから彼女から話を出してくれて凄く助かった。
「でね、環たちも行くって言っていました。」
「分かった。なら須永の分と合わせて席を用意しておくから、今度会った時にチケット渡させて。」
「ーーーありがとうございます。」
先輩と私は良好な関係に戻ったと言っても、
決して大幅に前に進んだわけではない。
少しずつ、本当にゆっくりと私たちに進んでいるんだとは思う。
” 花 “と呼んでくれた先輩からの言葉も今は ” 柊 ” に戻ってしまっている。
それに私もどんなに敬語を直そうと思っても、
最初に敬語で出会ったからそれを改善するのはなかなかハードルが高くて・・・
お互いに自分のペースで進もう、無理はしないということになった。
「で、木曜の夜なら時間取れそうだけど、飯でも一緒に行くか?」
「はい!いつものように7時で良いですか?」
「ーーー了解、木曜日に駅で。食いたいもんがあったら連絡して。」
先輩と電話する時は長電話はしないようにしている、
会った時に話すことがなくなるかもしれないし、
それに先輩の時間を邪魔したくないからと言う想いもある。
私から電話するのは今日みたいに用事があるときだけ、
基本はメールを送って、
先輩が電話をくれるようなスタイルにこの三ヶ月で変わった。
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木曜までの時間は本当に長く感じたーーー・・・。
授業の1分1秒を早く終われ、
木曜になれと願い続けた。
ーーーそしてやっと木曜日を迎えた。
早々に帰宅して、私は在宅のバイトを6時に終わらせる。
普段は適当な髪の毛も少しだけセットして、
ワンピースに着替える。
大学生になってから制服じゃない先輩と会うことが増え、
私も気を使うようになった。
ーーーもっと先輩の隣を歩いていてもおかしくない、
そんな人になりたいと。
ほら、やっぱりただ立ってるだけで先輩は人目を引く。
ヒソヒソと先輩の方を見て話す女子たちが目立つ。
そりゃそうだよ、
私から見たって本当にカッコいいもん。
「お待たせしてごめんなさい。」
そんな女子たちに負けないと私は先輩が待つ方は歩き声をかけた。
「おお、来たか。なら行くか。」
私を見て微笑を浮かべ、
何も気にしない先輩は当たり前のように手を繋いでくれる。
それだけでも私は幸せで、
強く握り返す。
事前に話して、
ちょっと気になってたイタリアンに入る。
「良いですか!今日は割り勘ですからね!」
「分かってるって・・・」
この前もその前も先輩は私に支払いを求めなかった。
何度払おうとしても受け取ってもらえなかった。
だから今回は絶対に割り勘!
そう昨日の夜に何度も伝えたから、
先輩は耳が痛いとでも言うように笑ってた。
私たちが入ったレストラン、
時間も時間だけあってすごく混雑していた。
だけど待つのも億劫にならない工夫がされているし、
何よりもご夫婦で経営している姿が私はとても素敵だなと思った。
オープンキッチンで中の様子も見えたけど、
笑顔溢れ、楽しそうにキッチンとホールの話も聞こえて雰囲気がとても好きだと思った。
もし私の足が動いたら・・・
こうしたバイトもしてみたかったな、と出来ない思いを胸に抱えた。
「これ、来週のデビュー戦のチケット。」
一通り食べ終わり、先輩が忘れる前にとチケットをくれた。
正樹先輩と須永くん、環と双葉と私の5枚。
「1年生だけの試合なんですか?」
「いや、違うよ。2年から4年の先輩たちも出るけど1年が多めってところだな。」
「先輩はスタメン?」
「ーーー今のところ、そうだな。」
「楽しみにしていますね。」
平日の夜に会えるのは長くても3時間、
だから時間はあっという間に過ぎて行く。
本当はもっと話したいーーー、
そう欲は出るけど今は言わないでおく。
先輩も新生活で今は大変な時期だと思うから。
ーーー結局、その日は会ってチケットをもらうだけで終わってしまった。
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「えっ!?手を繋いだだけ?!キスとか、ないの?!」
次の日、私は環たちにチケットを渡すために屋上でみんなでランチを取る約束をした。
ーーーもちろん須永くんも。
そしてちょっと物足りなさと言うか、
愛情不足を感じてしまってた私は滅多に話さない先輩とのことを少しだけ話してみることにした。
「ーーーうん、まったく。」
「えぇぇぇーーー!」
「それは女としては凹むわぁ・・・」
昨日のことを話してると環はグサグサ言ってくる。
「でも昨日は時間なかったんだろ?次に会ったときはもっとスキンシップあるかもしんねーじゃん?」
そこに須永くんのフォローが入る。
「でも私たちキスまでしかしたことないし・・・」
「えっ!?付き合って半年以上たつのに、ないの?!」
「えっ、うん・・・」
環の驚きように変なのかなと不安になる。
「ある意味すごいわ。相手が柊で、よく樹さんも我慢出来てんな・・と俺はそっちを尊敬する。」
貶されてるのか分からないけど苦笑いで返す。
「なんかごめんね!変な話の方向になっちゃったね!」
「樹先輩もきっと考えてることあると思うし、行為をしなきゃダメなわけじゃねーじゃん。2人のペースで進めていけば良いと俺は思うよ。それでもダメならまた相談してこいよ、慰めてやるよ(笑)」
「ーーーそれはありがとう笑」
環は腑に落ちない様子ではあったけど、
私は須永くんの言葉に救われたーーー・・・。
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そして週をまたいだ次の土曜日、
先輩のデビュー戦の日を迎えた。
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