#20.
先輩と出会って一年、
たくさんいろんなことがあったなぁと思う。
環たちがいなかったら先輩と出会うことも話すことも出来なかった。
好きになることも絶対になかったーーー・・・。
結果的にうまくいかなかったとしても好きになったことは後悔してない。
奇跡的に付き合えて幸せだったし、
辛かったこともあるけど幸せの方が多かった。
何よりも楽しかった・・・ーーー。
お父さんお母さん、
初恋は実らなかったけどこの学校で・・・
お父さんたちの母校で好きな人に出会えたよ、
そう報告出来たことは何よりの収穫だったんじゃないかなと思う。
「柊、こんなところにいたの?裏庭で先輩が待ってるよ。」
屋上にいる私を須永くんが呼びに来た。
溜まっていた涙を濁し、私は驚いた顔をした。
「えっ・・・待っているって約束してないし・・・」
先輩と討論をしたことも含めて環や双葉はもちろん、須永君も知らない。
だけど私から先輩の話題が出ないことだったり、
先輩の話になると濁したり席を外したりしているからきっと気が付いているとは思うーーー。
「何があったか知らねえけど、きちんと話せば分かり合えることもあるとは思うぞ。・・・とりあえず俺は樹さんに柊を呼んできて欲しいって頼まれたから探していただけだから!頑張れよ!」
確かに須永くんのいう通り、
話せば分かり合えることもあると思うーーー・・・。
だけど私は自分が先輩に吐いてしまったことで先輩を傷つけてしまった、
そのことが自分を責め続けている。
「ありがとう。」
それと同じくらい、後味悪い別れよりもきちんと笑顔でお別れをしたいとも思った。
だから私は須永君に笑顔でお礼を伝えた。
すぐに先輩が待つ裏庭に行けなかった私、
何をどう伝えるべきか少し冷静になって考えてから会いたかったから。
しばらくして先輩の待つ裏庭に走る私。
ーーーそこには空を見る先輩の姿があった。
「先輩!遅くなってすいません・・・」
走る私を見て、今度は先輩が駆け寄った。
「走るなって前も言っただろうが・・・」
「あはは、すいません(笑)」
一瞬視線が重なって、
咄嗟に私は視線を外し、苦笑いをこぼす。
久しぶりに見る先輩はやっぱり相変わらずかっこよくて、
卒業間近だからってこともあって登校日のたびに告白されているのを目にしていた。
「あっ!卒業おめでとうございます!」
私も先輩の姿を目に焼き付けたくて、お祝いの言葉を目を見て伝えた。
「ありがとう。」
「大学に行ってもバスケ頑張ってくださいね!」
きちんと笑顔で伝えられたと思う。
空白の2週間があったからこそ伝えられたことに感謝だ。
「ーーーああ。」
呼ばれた割には口数が少なくて戸惑う私。
「えっと・・・じゃあ私行きますね。」
最後は涙が目に溜まってしまったけど、
これも笑顔で言えた自分を褒めたい。
でもこの前のこと謝れなかったな・・・
先輩の今の気持ち聞けなかったな・・・
先輩の前を過ぎ、
私は校舎の方に向かって歩く。
ーーーもう涙が止まらなかった。
初めて好きになった人で、
初めて黒い感情を覚えた人。
本当に大好きだった人ーーー。
これで終わりなんだ、
もう会うことはないんだと思ったら涙が止まらなかった。
「花!」
ゆっくり歩く私を追いかけて樹先輩が突然私を後ろから抱きしめた。
---えっ・・・?今、花って言った・・・?
「なんで・・・何で今さら名前で呼ぶんですか・・・」
---何が起きているか分からない私は棒状に立っているだけ。
さらには嬉しさと色んな感情が混ざって、涙があふれるばかり。
「ーーーごめん。多分オレはお前の望むような彼氏にはなれないかもしれない。連絡もそこまで頻繁にするタイプじゃない、会える時間も少ないと思う。だけどお前と一緒にいたい、そう思ってる。」
「あんなひどいこと言ったのに怒ってないんですか?」
私は先輩に向き合うように体制を整えた。
「ーーー怒るどころか自分に幻滅したよ。柊に寂しい思いをさせていたのは俺だ、それに気が付きもしなかった。」
「私は・・・自分があんなひどいことを言う人なんだって自分が許せないんです!」
また爆発しそうな私を落ち着かせるためなのか、
先輩は強く抱きしめた。
「ーーー先輩、みんな見ています・・・」
そう、さっきから注目の的なのがすごく気になっている。
注目されているのは私ではなくて樹先輩ではあるんだけど。
「もう一度、ここから始めないか?」
そんな私の話なんか全く聞いてなくて、
先輩は私の耳元で呟いた。
「えっ・・・」
「きっと寂しい思いをさせることはこれからもあると思う。不安にさせることもあるかもしれない。そのたびにオレは柊ときちんと向き合いたいと思ってる。」
ーーー先輩は真剣な眼差しで私に伝えた。
「・・・いっぱい連絡しても良いですか?」
「いいよ。」
「会いたいって・・・会いに行っても良いんですか?」
「ーーー大学遠くないけどな。でも会いたくなったらいつでも来て構わない。」
「私・・・同じ大学目指すから・・・それまで浮気しない保証ありますか?」
「当たり前だろ。」
「・・・そっか。」
それだけ言って私は先輩の手を握った。
「ーーーよろしくお願いします。」
「1つだけ。我慢だけはするな、逐一吐き出して良いから。」
「ーーー努力します。」
私たちは見つめあって微笑んで、
先輩は私をまた抱きしめた。
《 あんな優しい表情する先輩初めて見た!柊さんの前だと1人の恋する男子だったね!》
見ていた野次馬たちの声が聞こえて、
私たちはハッとして離れた。
だけど誰1人として冷たい目で見ている人はいなくて、
みんながみんな優しい視線で《 おめでとう!》と拍手を送ってくれた。
・
「樹!こんなところにいた!あんた何してんの?さっきからずっと探してたんだけど・・・」
そこに先輩を探してやってきた1人の女性が来た。
あっ・・・この人、この前のカフェで先輩と一緒にいた人だ。
幸せだった私は一瞬でどん底に落とされた気分になった。
「って取り込み中だった?!」
「ーーーああ、かなりな。」
会話の流れで2人が特別な関係でないことは分かってホッとした。
「わたしもそろそろ行かないと・・・」
「柊、こいつ、オレの姉ちゃんだから。年子なんだよ、だからあまり姉貴に見られねえけど血繋がってから心配すんなよ!」
「ーーーはい。」
「ついでに双子の兄貴もいるのよ?ってこの子、この前の・・・ふうん、やっぱりそうだったんだぁ。」
「うるせーな!先に行ってろよ!あとから行くから!」
お姉さんと仲良しなんだな、
こんなに焦って挙動不審の先輩の姿は初めて見た気がする。
「・・・また夜に電話する。」
「はい、待ってます。」
これから家族で卒業祝いだという先輩は、
お姉さんを追う形に学校を後にした。
・
私も学校を出て・・・
半年に一度の足の検査に向かった。
特に異常なし、
リハビリも今回は免れた。
ただ最近耳鳴りがひどいから、
病院行ったついでに耳鼻科に寄って診てもらうことにした。
耳鳴りはここ2週間前くらいから鳴り響き始めた。
キーンという効果音が続く感じ、
だけど毎日鳴るわけじゃない。
ただ耳鳴りが始まると数時間止まらず、
頭痛を引き起こすのが厄介で今回受診した。
聴覚検査をはじめとする耳の検査をしたけど、
特に異常もなく、
ストレスだという判断で終わった。
–
夜、私は先輩からの電話を受けた。
「ーーー先輩、少しで良いから会えませんか?」
電話越しで声を聞いたら今度は会いたくなってしまった。
「コーチは大丈夫なのか?」
「ーーー今日は日付変わった頃に帰るんじゃないかなぁ。」
卒業式ということもあり、
先生方で飲み会があるって参加しに行った。
「なら下で待ってて、ランニングがてら走って行くわ。」
まさか承諾してもらえると思わなくて、
電話切って私も着替えてマンションの下のベンチで先輩を待った。
待っている間考えていたーーー。
不思議だな、って。
昨日まで・・・
今日の朝まで、先輩ともう会うことはないと思ってた。
失恋確定だと思ってたのに、
もう一度始めようと先輩が言ってくれた。
これも縁っていうものだと私は思う。
だから私は先輩と巡り巡る縁に恵まれたんだと思う。
「柊!待たせた?」
少し息切れしている先輩は5分もしないうちに到着した。
「ねぇ、、、」
「なんだ?」
「花って・・・花って呼んで欲しいです。」
それをいうのさえも恥ずかしくて、
私は先輩に抱きついた。
「花・・・」
「ふふ、恥ずかしいけど嬉しいです。」
「ーーーお前は敬語をやめようか(笑)」
「努力します(笑)」
私は先輩を見上げた、
こっちを診て微笑む先輩の姿が愛しくて、
自分から背伸びして彼に唇を重ねようとしたけど届かなくて笑われた。
ひどい!というじゃれ合いの中で、
今度は先輩から唇を重ねてくれた。
ーーーマンションの死角にになってるベンチで誰からも見られないのを良いことに、
私たちは何度も何度も唇を重ねた。
「・・・好き、大好き・・・」
「オレもだ。」
ーーー今はこれ以上何も求めない。
キスするだけで、
抱きしめてもらえるだけでこんなに幸せなんだもん。
一度手放しそうになった関係だけど、
どうか戻った今のこの関係が続きますように、
そう先輩に抱きしめられながらずっと願っていた。
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