#19.
いつも先輩に電話するときは緊張する。
今日はその倍・・・
ううん、3倍は緊張した。
・
「ーーーもしもし。」
「柊です。電話くださいましたか?」
ーーーこう会話していても、
明らかに付き合っている2人の会話だとは到底思えない。
「ずっと連絡出来なくて悪かったな。正樹たちと卒業旅行行ってて連絡出来なかった。」
「いえ・・・。どちらに行かれたのですか?」
「韓国に行った。お土産買ってきたから近いうち会えるか?」
そうか、海外にいたから連絡来なかったんだ。
でも旅行に行くなら一言欲しかったな、
海外に行くなら一言欲しかったな、
と正直寂しく感じた。
「・・・」
「柊?」
「あっ、すいません。今週は予定がいっぱいで、また来週の予定が分かったら連絡させてもらっても良いですか?」
「ーーーああ。」
敢えて約束を取り付けなかった、
期待してしまう自分がいるから。
先輩はいつもそうだーーー・・・。
連絡が来なかったと思えば事後報告が多い。
今回の旅行に関しても終わってからの報告。
ーーー私に関係ないことは報告さえも受けない。
私は好きな人のことならなんでも知りたいと思うけど、
きっと先輩は違う・・・。
1週間でも1ヶ月でも、
連絡なんて取らなくても大丈夫な人だもん。
私って先輩の何なんだろ、
そうプツリと糸が切れた感覚を覚えた。
・
「今日、樹先輩来てる!正樹先輩も井上先輩もいる!」
週が明けて木曜日、
友達の興奮した声が耳に届く。
学校に来なくなっても人気者なんだな、と言う気持ちと。
そうなんだーーー・・・。
という何も知らない自分。
ほらね、私は知らない情報。
そう思って苦笑いがこぼれた。
それを聞いた環は須永くんと一緒に3年のクラスに走っていたけど、
私はどうしても会う気にはなれなかった。
先輩の中での自分の存在価値を見出せなくなってしまっていたからーーー。
《 HR終わったら教室まで迎えに行く。》
そうメールが来たのは6時間目の授業が終わる頃。
会いたくない・・・
今は会いたくないと思った。
ーーーだから既読スルーをして早々と教室から離れた。
「・・・なんで・・・」
でも私の行動は先輩に読まれていて、
見つからないように裏口から帰ろうとしたのに、
なぜか裏口の門の前に先輩が立ってた。
「ーーー考えが甘いんだよ。行動が読まれてんだよ・・・」
ちょっとイラッとしてる先輩が言った。
そっか、と諦める自分がいて・・・
私は視線を落として先輩の前を通り過ごし、門を抜けたーーー。
彼は私の隣に立ち、同じ歩幅で歩くだけ。
何も言わないーーー。
「柊に避けられるほど傷つけたか?」
やっと口を開いたのはちょうど家に着く直前だった。
「いえ・・・」
私は立ち止まり先輩に答える。
「いえって何?じゃあなぜこっちからの連絡に返答しないか言ってみろ。」
「忙しくて・・・」
「何に?バイト探しか?」
最後に先輩と話したのは週末の偶然会ったあの日、
予定が決まったら連絡すると言ったっきり私は連絡をしてない、
そして、先輩から何度か受けた連絡も拒否続けていた。
「それは・・・先輩に関係ないことです。」
先輩は本当に嫌気がさすように大きなため息をついた。
「本当は言いたいことあるのに言えないんだろ?何が不満?」
「不満なんて・・・」
「柊に初めて連絡先を聞かれた時に言ったよな。嫉妬に狂う女が嫌いだと。」
「ーーーはい。」
「あともう一つ、言いたいことを我慢して爆発する女も苦手なんだよ。」
「ーーーそれが私なんですね。」
「ーーー柊は違うと思ってた。」
それって・・・
先輩が思い描いていた私と、
実際の私は違ったってことだよね。
「先輩の思い描く彼女になれずすいませんでした。」
悔しくて涙が出そうで、
私は一礼してその場を離れる。
「待てよ!話は終わってないだろ?!」
つかさず先輩が私の手を掴んだ。
「離して!」
私は必然的に先輩の方を向く形になり、叫んだ。
「そうだよ?!言いたいことたくさんあるよ!?この前の人誰?!環とのことだって本当は不安だよ!?私といる時より環のと方が楽しそうで悲しくなるよ?!先輩が好きだからそう思っちゃダメなの?!それに卒業旅行行ったことも今日学校に来ることも全部事後報告!私、彼女なんだよ?何で全部終わってから報告なんですか?!ーーー私の存在価値がわかんないよ。先輩は平気でも私は毎日でも連絡とりたかった!」
突然爆発したから先輩は呆然と立ち竦むだけだった。
「・・・柊、落ち着けって。」
「触んないで!」
私の方に一歩寄った先輩を私は拒絶した。
こんなこと言いたいわけじゃなかった、
後悔してももう遅いーーー。
言い過ぎたーーー・・・。
終わった、そう思った瞬間だった。
・
それから1週間、
そして2週間が過ぎたーーー。
先輩からの連絡は途絶え、
もちろん私からも連絡はしていない。
たぶん、もう終わった関係なんだと思う。
先輩たちが登校日で学校に来たと聞いても、
過敏反応はしないように心がけた。
その間、
私は環たちと今までのように接しながらも、
どうしてもバスケ部という接点から樹先輩を思い出してしまうことも多いから文化祭で仲良くなった琴ちゃんと一緒にいる時間も増やした。
その間に在宅のバイトも決まったーーー・・・。
先輩がいなくても前を向いていけるじゃん、
普通に暮らしていける、
そう思った。
剛くんとも今後についてすごく話し合った。
一人暮らしをしようという意向も伝え、
お姉ちゃんを加えて3人で話し合った。
何度も何度も話し合ったけど、
高校生という分際で一人暮らしを受け入れてもらうことはできなかった。
今まで通り、何も変わらない!
剛くんはきっぱりそう言ったーーー。
そんな精神的にも肉体的にも多忙な2週間を過ごしていたから先輩のことを考える時間が少なかったのかもしれない。
そうこうしてる間にあっという間に卒業式を迎えてしまった。
肌寒い季節から少しずつ春らしい暖かさを感じるようになった3月、
先輩は高校を卒業した。
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