【 君がいる場所 】#18. 嫌がらせからの距離*。

君がいる場所

#18.

屋上でみんなで食べることに3人とも疑問を抱いていたけど、
私がお姉ちゃんのことや剛くんのことを伝えられなかったことを話すと笑顔で気にするなっと言ってくれて少し心救われた気分になった。

お姉ちゃんが校庭で公表したことで、
剛くんとの同居は認められた。
HANAの妹としてお姉ちゃんはどんな人なのか、とか姉に関する情報を聞きに来る人も増えた。
剛くんも交際していることを公表されたことで、
生徒たちからあれやこれやと聞かれて困惑している。
「あっ!ごめんねぇ〜〜小さすぎて見えなかった!ワハハ!」
だけどそういう人たちだけではないーーー。
特に運動部の先輩たちから私は意図的にぶつかられたり、
下駄箱にゴミが入っていたりと嫌がらせを受けることも少なくはなかった。
「いえ・・・こちらこそすいませんでした。」
ーーーみんな樹先輩のファンの人たちで、
私を嫌う同盟でも作ったんじゃないかなと思う。
すれ違うたびに暴言を言われ傷つかないわけじゃない、
深く傷つくーーー。
でも先輩を好きで諦めなきゃいけない気持ちや、
認めたくない気持ちも私は分かるから先輩方に抵抗は出来なかった。
ーーー何も言わないことがもっと先輩たちを苛立たせていることも気がついている。
でも私は無駄に喧嘩したくなかったし、
何も言わないことで穏便に過ごしていけるならそれで良いと思ってた。
自分さえ我慢すれば何も始まらない、と。

でも嫌がらせされていることが先輩にバレた。
教室まで迎えにきてくれた先輩と一緒に帰宅した日、
下駄箱で靴に履き替えるときに大量にゴミが私の靴箱から落ちてきた。
「何だそれ?」
「な、何でもないです!」
それをつかさず拾った先輩の手から私は奪う。
「ーーーいいから見せろ。」
大きな字で消えろと書いてある字が先輩にも見えたんだろう。
今度は先輩が私の手からその紙を奪い取り、
私の下駄箱を覗き込むように数枚の紙を取った。
全部の紙を殴り握り、
私の下駄箱のゴミを空っぽにしてくれた先輩は近くにあった焼却炉にそのゴミを投げ捨てた。

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「ーーーいつからこんなことされてんだ?」
「いや・・・」
「いつからだって聞いてる。」
手に拳を固めて真剣な眼差しで問う先輩。
ーーー怒りを我慢していることが伝わった。
「1週間くらい前です。」
「何で言わなかった・・・?」
「言えないですよ・・・。先輩のことを好きな人たちの気持ちもわかるし・・・波風立てたくなくて・・・」
一瞬絡んだ先輩との視線、
私はその視線を地面に落とした。
「俺のせいでゴメンな。」
「先輩のせいじゃないです!私が先輩を好きになったから・・・だから・・・」
「オレたちが悪いことをしてるなら納得出来る。だけど違うだろ?柊、なんかしたのか?してないだろ?何で何も言わずに我慢だけしてんだよ・・・」
「ーーーすいません。」
何も言い返せなかったーーー・・・。
「謝って欲しいわけじゃない。・・・悪い、今日は先に帰るな。今、頭に血が昇っててダメだわ。」
「ーーーすいませんでした。」
先輩はもう何も言わずに、
私の目の前をスッと抜けて校門を出て行った。
ーーー喧嘩したわけじゃない、
そう思ってるのに、
不安で不安で私は自分が壊れそうな・・・
そんな気持ちになった。
だけど、私は追いかけることが出来なかった。

それから1週間、
毎日お迎えに来てくれていた先輩の姿が消えた。
今、私と距離を置こうとしていることがすぐに理解出来た。
それに3年生が2月になった今も毎日来ていることが珍しかったんだなと思った。
三年のフロアにいっても物静かで、
皆んな塾だったり自宅学習だったりと受験に励んでいる。
三年生が学校に来ることは滅多にない時期なのに、
私はそれすら知らないで先輩の行動に甘えていたんだと自分を恥じた。

私も甘えるだけじゃなく、
自分にできることをしようと決めた週末、
求人雑誌を求めに本屋に来た。
長時間労働が出来ないから在宅で出来るもの、
そうなるとやっぱり冊子を見てもなかなか見つからなくて私は途方に暮れた。
「えっ・・・柊?」
求人雑誌を含めた3冊を購入して隣のカフェへ、
希望薄の今の状況に落胆していると上から声がかかった。
「あっ・・・先輩・・・」
「ここで、何してんの?」
見ての通りカフェです、とは言えず苦笑いで反応した。
「樹、知り合い?先に席取っておくわ。」
そこに先輩の連れの方が割り込んで、
私たちの会話を遮ってくれたことに救われた。
「バイトすんのか?」
「ーーー2年に上がるし、しても良いかなって思ったりして・・・」
「ーーー見つかりそうか?」
「いやぁ、私は特に厳しいですね。・・・でも頑張ります。」
私は笑顔で先輩に伝えた。
「このあと予定あるのか?・・・良かったら・・・」
「あっ!こんな時間!帰らないと・・・失礼します!」
先輩の連れの人がこっちを見てまだかなぁと顔をしていたのもあるし、
2人きりになるのも少し気まずくて私は焦るようにカバンに購入した本たちをしまってカフェを後にした。
トイレに行ってから、
ーーーそっと外から中の様子を伺った。
楽しそうに綺麗な女性と団欒している先輩の姿が見えた。

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髪の毛が長くてストレートに整えられている、
そして何よりも背が高くてスタイルが良かった。
子供っぽい私とは比べ物にならないほど、
大人っぽい女性そのものだったーーー・・・。
今思えば、
文化祭で先輩が元カノさんによりを戻そうと言われているのを目撃した時も黒髪のロングヘアの人だった記憶がある。
見たくもない光景だったから鮮明に覚えている。
その人も目の前にいる人ほどじゃないけど、
高身長でキリッとした目で美人だった。
ーーー今先輩といる人は新しい彼女なのかな、
そう思うと胸が痛んだ。

2人の共通点、
黒髪でストレートのロングヘア。
可愛いよりも綺麗系の女性ーーー。
それが本来の先輩の好みなのかな。
私はそれとは真逆で、
小学生並みに小さくて髪の毛も茶髪で、
外国人のようにクルクルしている髪の毛の持ち主だ。
ーーーどうして先輩は私を選んだんだろう。
どうして先輩は私を好きになってくれたのかな。
本命はこの人で、
私とは学校内だけの付き合いだったのかな・・・
だからあまり外に出かけたりすることもなく、
連絡取らなくても普通だったのかな・・・
変な不安ばかり生まれて、
前を向いて帰ることだけで精一杯だった。

だから・・・
先輩から1週間ぶりに来ていた電話に気がついたのは22時をすぎた頃だった。
見ないフリもできた、
気がつかないフリもできた。
でも・・・繋がりたくない一方で繋がりを求めていた私は無意識のうちに発信ボタンを押していた。

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