#17.
3年生の先輩達との問題があってから、
私はクラスの子達や他の学生達にも同情されるような目で見られることが増えた。
ーーー足は大丈夫?
みんながみんなそう聞く、
足が悪いなら佐藤先生が幼馴染で心強いね!
と言う声も聞こえた。
ーーー大丈夫、そんな声には慣れているから。
それよりも先輩と手を繋いでても、
一緒に歩いてても、
誰も文句を言わない、
そのことの方が嬉しかった。
・
この日も最近では慣れたように先輩と一緒に横に並んで学校に向かう。
何気ない会話したり沈黙が続くけど、
特に問題ない、許容範囲。
「えっ、あの子でしょ・・・二股とか最低だよね。」
だけどいつもと雰囲気が違かったのは、
多くの学生が私に対して白い目で冷たい視線を送り、
コソコソと話していることだった。
「花!大変だよ!ちょっと来て!」
意味も分からず下駄箱で履き替えていると環が血相を抱えて私のもとにやってきた。
「真面目そうに見えて顔だけ可愛いからって樹先輩で遊んでんじゃねーよ!」
そう言う声も耳に届いた・・・ーーー。
私と先輩は環の後を追って、
学校掲示板に走った。
ここは中間や期末テストの結果や、
クラス分けが貼られる大きな掲示板だ。
今の時期は通り過ぎる人も多い中、
すごい人だかりでいっぱいだった。
「えっ。ーーー何これ。」
大きな掲示板だから小柄の私でさえも見える。
ーーーそれは夏休みに私と剛くんが一緒にスーパーで買い物している写真、
私が彼を見送る写真、
彼の車に乗っている最中の写真・・・
全て私たちが同棲でもしているかのように見せかけられ盗撮された写真がズラリと貼られていた。
私に悪意を持ってる人、
三年生の先輩達しか思いつかなかった。
「さいてーー!幼馴染って嘘じゃん。幼馴染が一緒には住まないでしょ。樹先輩かわいそーーー・・・」
そう言った声が耳に届き、
私は耳を塞ぐ。
「なんも事情知らねえで・・・」
そんな私を見て先輩は掲示板の写真を剥がしてくれたけど、
みんなの目に留まっているならもう遅いと思う。
「なんでこんな子、庇うの?!先輩も先生と柊さんが一緒に住んでるって聞いてなんとも思わないの?!」
2年の先輩が樹先輩に問う。
「ーーー知ってたし。それを知った上で、交際を申し込んだ。なんか文句あんのかよ。」
「ほら一緒に住んでるの事実じゃん!」
いろんな人に詰め寄られる先輩、
とても迷惑してるのが顔から滲み出てる。
「もうやめて・・・」
我慢できなくなった私は大きな声で叫び、
その場を駆け足で去った。
「柊!」
その声に振り向くこともせずに、
教室に行くことも出来ずに、
そのまま帰宅したーーー・・・。
昼過ぎに剛くんも帰宅した・・・。
「ーーーごめん、軽率だったよね。」
学校中がその話題で騒がしく、
剛くんがいると授業にならないからと早退させられたとのことだった。
「いや、俺が学校に伝えておくべきだったと思う。」
「ーーー剛くん。」
「なんだ?」
「わたし、この家出るよ。」
下を向いていた剛くんは驚いた顔で私を見た。
「どう言うことだ?」
「剛くんに迷惑かけられないよ・・・」
「仮にここを出たとして、行くあてはあるのか?」
「ーーー転校するしかないよね(笑)」
「夢だったんじゃないのか?ご両親の学校を卒業するの、だからばあちゃん達に頼み込んで一緒に住む条件を付けられたんだろ?分かってるか?」
「ーーー分かってる。でも剛くんの夢もバスケ部のコーチと先生だよね?それを奪いたくないよ。」
剛くんはそれ以上、
何も言わなかったーーー。
ただいつも通りにその日を過ごした。
だけど、私はその日のことを全部お姉ちゃんに報告した。
・
休もうか迷った次の日、
私は校長に呼ばれてこともあり休むことは許されなかった。
「ーーー先に行って良いですよ。」
「俺は全て知った上で柊と付き合ってる。堂々としてろ。」
一緒に登校する先輩にも申し訳なくて、
私は一歩引いて歩くのに先輩は私の手を強引に繋いで登校する。
「今日HANA来てるんだって!」
白い目で視線を感じながら聞こえた情報。
どうやらHANAのSNSをフォローしている子が、
校長室に入るHANAを見たと言っている。
「私も行かないと・・・」
「どこに?」
「校長室に呼ばれてるんです・・・」
「でも今、来客してるんだろ?」
「その理由が私だからです!HANAは私のお姉ちゃんです!剛くんの・・・彼女です。」
呆然と立ちすくむ先輩を目の前にして、
私は立ち去ろうとしたーーー。
だけどそんな時に校庭に集まるように放送が流れ、
私は上履きに履き替えることもなく、
カバンを教室に置くこともなく校庭へと先輩と向かった。
普段であれば学年ごとに並ぶ校庭、
今日は来てる人もまばらで、
まだ来ていない人もいるため、
適当に校庭に並んだーーー。
「環!」
私は校庭に入ってきた環と須永くんを見つけて叫んだけど、
先輩は私の手を掴んで行かせようとはしなかった。
「ーーーここにいろ。」
まっすぐ前を向いて先輩はそれだけ言った。
結局、環や須永くんみんなが私たちに合流してくれる形となった。
・
ガヤガヤと流れる賑やかな声の中、
HANAがマネージャーと一緒に上段して来た。
華やかな衣装が似合い、
華やかなお化粧が似合うHANAだけど、
今日は普段のお姉ちゃんだった。
華やかさは残ってるけどその中にも清潔感がある、
お化粧もテレビに出る時とは違い、
普段私の前で見せてくれる薄いお化粧だった。
「うわぉ!本物だ!めちゃ綺麗なんだけど!」
その声が賑わう中、
大きな深呼吸をしてお姉ちゃんがマイクを取った。
「今日は突然来校して、校長先生や先生方をはじめ、色んな方にご迷惑をおかけしたと思います。ご存知の通り、私はここの卒業生でもあります。だからこそ話を聞いて欲しいと思って来校しました。」
真剣な眼差しでテレビの時とは全く違うHANAの姿に学生達も先生も戸惑いつつも静寂を保った。
「私にはこの学校に大切な人たちがいます。1人は両親を小さい頃に亡くし、我慢を強いられて育って来た子です。私はそんな彼女を置いて1人で東京に出てしまった負い目から、ある信頼できる人に彼女を託しました。彼女の両親の母校であるこの学校を卒業するまで自分の代わりに見守って欲しいと、頼みました。」
お姉ちゃんは涙を流しながら必死に伝えていた。
「ーーーそんな・・・」
私の小さな独り言を返事するかのように樹先輩は手をずっと握っててくれた。
「ーーーそれが私が入学した当初、3年生だった佐藤 剛先生です。」
えっ、とざわめきが始まった。
「そして、柊 花です。2人が一緒に暮らしているのは事実です。そして祖父母を含め佐藤コーチにもそうして欲しいと頼んだのは、誰でもない私です。花の母校を出たいと言う願いを叶えてあげたい、その一心で佐藤先生に頼み込みました。先生と生徒という立場になる以上、何度も断られましたが・・・私も負けませんでした。最後の最後に佐藤先生は折れてくれ、今に至りますが2人の間に恋愛関係があるとは思っていません。」
「なんで?!どうしてそう言い切れるんですか?」
1人の女生徒が聞いた。
「彼女には最近彼氏が出来たと聞きました。詳しいことは知りませんが、今はその人以外見えてないと思います。それに佐藤先生には・・・大事に思っている彼女がいらっしゃいます。そんな人たちを裏切るとは思いません。」
普段言葉の悪いお姉ちゃん、
すごい慎重に言葉を選んでいるなと聞いてても痛いほどわかる。
剛くんは・・・ただお姉ちゃんを見守ってた。
ああ、今日のこと知ってたんだなって察した。
「彼女と彼氏がいるから、相手が嫌になるとは思わないんですか?!」
「彼女の彼氏は事情を知った上で付き合っていると聞きました。そして佐藤先生の彼女は心がとても広くて可愛い方なので・・・」
お姉ちゃんが言い終わる前に他の学生が割り込んだ。
「そんなこと本人じゃないんだから分からないじゃないですか?!」
いろんな質問が飛び舞うことに限界に達したHANAは本音がポロリと出た。
「・・・本人だから!私が剛の彼女、文句ある?!」
その言葉を発した直後に、
あっ・・・とヤバそうな顔をしてたけど時すでに遅し。
剛くんはそれを見て大笑いしてたーーー。
「とにかく!立場的に同居は良くないのかもしれませんが、彼女から夢を奪わないで欲しいんです。・・・妹を苦しめないでください、お願いします。私が伝えたかったのはそれだけです、突然すいませんでした。」
そう言って壇上から降りた。
マネージャーさんと一緒に学校を出てしまうーーー。
「行った方が良いんじゃないのか?」
「先輩も来て!」
私は姉の後を追って、「お姉ちゃん!」と大きな声で叫んだ。
「はなーー!やっちゃったよね、最後やらかしたよね?笑」
「うん、やらかしたね(笑)」
「ど、どうしよう・・・もし逆効果だったらごめん!」
「ううん、嬉しかったよ!ありがとう!昨日電話してすぐに来るなんてビックリ!」
「花のためならなんでもするって言ったでしょ?(笑)」
「私のヒーローだもんね!」
私たちは笑い合ったーーー・・・。
「似てるだろ、この2人(笑)」
環達と一緒に来た剛くんが私の仲良い子達に笑顔が似てるけど性格が正反対だと教えていた。
自己肯定が高すぎる姉と、
自己肯定が低すぎる妹だと紹介してた。
「剛!ってか、この子誰?(笑)」
お姉ちゃんとの話に夢中で先輩を紹介するの忘れてた。
「あっ、私の彼氏・・・です。」
「えっ!マジで!?めちゃイケメンじゃん!剛・・・よりイケメンじゃん!笑」
「お前、一応彼氏だけど、俺?(笑)」
「良いの良いの!本当のことだから!花の姉の愛梨です!よろしく!」
「ーーーよろしくお願いします。」
テンション高いお姉ちゃんに握手を求められて少し引いていたけど、
握手返しする先輩は優しいなって思った。
「おれ、同じクラスの須永です!」
「わたし、環!」
環と須永くんはファンだったらしくて自己アピールが強かった。
「ーーーわたし、なかなか来れないけど。妹のことよろしくお願いします。剛!あんたも、花のことよろしくね!」
そう言って、
タイムアウトだとマネージャーさんに呼ばれてお姉ちゃんは仕事に戻った。
・
私とHANAが姉妹だということや、
お姉ちゃんが話してくれたことが校長先生の耳にもしっかりと届いたことで、
剛くんとの同居問題も何故か認めてもらえるようになった。
そして私たちが姉妹だと分かってから、
男女関係なく私に話しかけてくる人が増えた。
影響力の大きい人だから、
私と関わってて損はないと思ってるのだろうか。
そんなこと私にはお見通しだから、
私は今のままの友達をもっと大切にしたいと思った。
ーーーそういう意味でも、
環と双葉、そして須永くんをお昼に誘った。
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