【 君がいる場所 】#08. 遅すぎた告白*。

君がいる場所

#08.

残された時間は半年ーーー、
私は自分のしたかったことをこの学校でやろうと決めた。

「柊さん、樹先輩が呼んでる!」
えっ?!わたし?
戸惑う中、
クラスの女子の視線が私と樹先輩に向かうのも気まずい。
それだけで先輩の人気ぶりが分かる。
クラスでこうなんだから学年で言ったらもっと、
学校で言ったら何倍になるんだろうと思った。
「ーーー押しかける形をとってすまない。」
人気の少ない廊下に移動して先輩は私に言った。
「大丈夫です。何かご用でしたか?」
「この前のこと・・・」
「あっ、そのことですか!大丈夫、誰にも言ってませんよ?」
私は無理に笑顔で答えた。
ーーー私の中ではまだ整理されてないから出来れば触れたくない内容だったから。
「いや、そういうことじゃなくてさ・・・」
「一時期先輩に彼女がいるって流れたじゃないですか?アレが消えて嘘だと思ってたんです、でも本当だったんですね。」
「だから・・・!」
「綺麗な人だったなぁ・・・羨ましい!大切にしないとダメですよ?とにかく誰にも言わないので安心してください♡じゃ、失礼しますね!」
「柊!」
私は先輩に話す隙を与えずに、
珍しくひたすら一方的に話して教室に戻った。
先輩の私を呼ぶ声に私は振り向きもしなかった。
クラスの子たちにも何だったー?と冷やかされたけど、何もないと答えるしか他はなかった。

それから私は環に誘われても先輩が来ると知ったら断るようにした。
極力先輩と過ごす時間を減らそうと決めた。
ーーー諦めなきゃいけない人だから、
同じ環境にいたら諦められないから、と思って。
環と双葉はきっと何かあったと気がついてる、
でも幸いなことに何も聞いてこなかった。

「ーーー日曜日、帝国ホテルで待ってるそうよ。」
「分かりました。」
「花、相手は同じ高校生でも経験豊かな人。あなたとはちがうの。色々覚悟して向かいなさい。向こうだってあなたの傷を理解してくれてるんだからきちんとやりなさい。」
そんな時、おばさんから受けた電話ーーー。
色々話が進んでいるんだな、と思い知らされた。
私のいろんな準備って心の準備?
それとも・・・?
不安がいっぱいで、
私は夜寝付けなくなった。

「最近体調悪いか?」
ーーー剛くんはそんな私の体調にいち早く気がつく。
優しくて人思いの剛くんを彼氏に持ってお姉ちゃんは幸せだなって思った。
私もそんな人と結婚したいな、っていつか思ってた。
でもきっとそれは叶わないのかな、と思うと少し切なくなった。
「花?聞いてるか?」
「あっ、ゴメン。なんか言った?」
「いやーー・・・いいや。今日の午後、雨だって言うから傘持って行けよ。終わったらすぐ帰るんだぞ。」
「ーーー分かった、今日は寄り道しないよ。」
ご馳走様、と剛くんは先に学校に行った。

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午後、本当に雨が降った。
予想を上回る本降りで、学校から帰ることをすごく迷った。
ーーー雨がすごくすごく苦手だから、
1人で帰るのが怖かった。
「柊!良かった・・・まだ帰ってなくて・・・」
下駄箱で先に進もうか後退しようか迷っていると剛くんが走ってきた。
「あっ・・・その・・・」
「怖いか・・・?」
私はコクンと頷いた。
「中で待ってろ、震えてるわお前。部活休みになったから・・・あっ、樹!悪いんだけど、コイツ送ってもらえる?」
ちょうどそこを通りかかった先輩に剛くんは声をかけた。
偶然にしては心臓に悪いよ・・・。
「えっ、いいいい!待ってます、終わるの待ってます・・・」
「ーーーこれから会議なんだよ。樹の家、オレの家通り道だからさ。甘えておけ。ーーーこいつ、震えてるからゆっくり歩いてやって、悪い。」
「いえ、大丈夫です。行こうか。」
「帰ったら連絡しろよ!」

先輩に率られ私は先輩と並んで歩く。
「ーーー迷惑かけてすいません。」
「いや、別に。」
無言・・・ーーー。
何となく気まずいからね、お互いに。
「小さい頃、大嵐の中・・・色々巻き込まれちゃってそれから苦手なんです。」
「だからコーチも過保護に・・・」
「ですね。先輩方には幼馴染であること話したと聞いています、余計な話をすいません。」
「俺は柊とコーチの関係をむしろ疑ってたから聞いて良かったと思ってるよ(笑)」
「ーーーそっか(笑)」
話しては沈黙が続くーーー。
でもここ最近の気まずさではまだ良い方ではないかな。
「この前、体育館に一緒にいたのは彼女じゃない。」
「えっ・・・」
突然先輩がこの前の話をしだして、私は焦った。
「それを伝えようとしてるのに人の話を聞かない。柊の悪いところだな。」
「ーーー彼女じゃないのに抱き合うんですか?」
「元カノでヨリを戻したいと言われたんだよ。」
「・・・戻せば良いじゃないですか。すごく綺麗な人でしたよ。美男美女になると思いますけど。」
先輩は立ち止まって私を見た。
「ーーー好きなやついるから。」
えっ、そうなの?
彼女の次は好きな人かぁ・・ーーー。
胸の痛みを強く感じた瞬間だった。
「そっかぁ・・・」
彼女じゃなかったと安心したのか、
好きな人がいることに対してのショックなのか、
私は笑いながら涙をこぼしてた。
「えっ、柊?」
「すいません!どうしたんだろ?あれ?何で涙なんか・・・ごめんなさい、ちょっとおかしいです・・・」
私は必死で涙を止めようとするのに、
逆に溢れて涙が止まらない。
そんな時、優しい温もりが私を包んだ。
傘が落ち、
雨に濡れて冷たいけど、
それに負けないくらい暖かい温もりに包まれた。
抱きしめられてる心地よさを感じたのも束の間、
先輩は私にキスをした。
「っっっ!」
私はそんな先輩を突き放した。
「なんで・・・」
「好きだ、オレは柊のことが好きだ。」
先輩はまた私を強く抱きしめた、
そして今度は唇の奥までキスをしてきた。
私のファーストキス、
大好きな先輩とキスできた。
それだけで幸せを感じた。
「・・・私だって好きだったよ。」
「えっ?」
「私だって先輩のこと大好きでした!でも・・・もう遅い・・・ごめんなさい。」
私は先輩を突き放して雨の中、駆け足で走った。
恐怖で倒れそうだったけど、
とにかく無我夢中ですぐ目の前にある家の中まで走った。
「柊!」
また私を叫ぶ先輩の声を無視して。

私は先輩の気持ちがわからない。
ーーー本心で言ってくれたのか、
私の好意に気がついていて合わせようとしてくれていたのか。
分からないけど、
嘘でも好きだと言ってくれて嬉しかった。
あなたが私のファーストキスで幸せでした、
そうノートに書いて自分の気持ちに蓋をした。

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