【 君がいる場所 】#07. 先輩と彼女*。

君がいる場所

#07.

文化祭当日、
早朝にクラスに集まったけど、
正門も校内も文化祭一色ですでに賑わっていた。

「HANAのステージ何時からだっけ?」
HANAとは私のお姉ちゃんのこと、
なぜか私の名前で活動している。
「10時半と13時だったよ!」
「抜けられるかなぁ、見たいなぁ!」
クラスの出し物もそうだけど、
今日のお姉ちゃんのステージを楽しみにしている子も多かった。
特に男子が・・・。
だけどお姉ちゃんは実は女性ファンも多くて、
ファンサービスもよくしているからさらに人気がある。
猫かぶってる!とテレビ見るたびに剛くんはいうけど、
きっと彼なりの強がりなのかなって思う。
「それよりもクラスの出し物よろしくね!」
仕切るように環が言ってくれて、
私たちはまた最後の準備に入った。

初めて着るウェイトレスの服はカフェらしくとても可愛かった。
「・・・抱きしめても良いっすか?」
部活併用の環と双葉はクラスの出し物から除外され、
サポートという形になってる。
だから私を見た環は何枚も写真を撮っては、
本当に抱きしめて来た。
「あー!花は本当に可愛い!私が男なら絶対好きになる!」
意味不明なことを言っていたけど、
それはそれで嬉しかった。

9時スタートの文化祭、
私は吉野さんたちと一緒にクラスの中でほとんどを過ごした。
この日は先生生徒内部外部関係なく、いろんな人が来てくれる。
現に今は外部の男子高校生から連絡先を聞かれたばかり。
ーーーそう、文化祭は出会いの場でもあるのだ。
もちろん連絡先は交換してないけど、
きっと、交換して出会う人も多いんじゃないかなと思う。
「1時間、休憩行って良いよ!」
村井さんに言われて私は1時間の休憩に入る。
その隙に環たちのベビーカステラを買いに行こうと思っていたから正門の方に向かう。
なぜか行列が出来てて環の切れてる顔が見えた。
15分くらい並んでようやく自分の番。
「すごい行列だね・・・」
「ほぼ男子目当て、樹先輩正樹先輩に須永に井上先輩に・・・女子だっているんだ!って言いたい(笑)花はサービスしておくね♡」
「ありがとう。樹先輩は?」
「そーいえば、さっきどっかの高校生に呼ばれて行ったな・・・」
「ありがとう。探してみるね。」
環は前回、ケーキを渡すのに失敗してるのを知ってるから今回こそ頑張れと言ってくれた。
私は樹先輩を探す三年の教室にも足を運んだし、
裏庭にも足を運んだ。
ーーーでも結局見つけられず、
やっと見つけたのは体育館だった。
「・・・っっっ!」
でも一歩進もうとして、足を止めた。
・・・入れなかった、
だって他校の人と抱き合ってる樹先輩がいたから。
ガタッ!
私は近くにあったチリトリに足を絡めて転んでしまい、
先輩に見つかる形になってしまった。
「すいません!見るつもりなくて・・・すいません!」
「柊!」
その言葉に私は耳を塞いで、
必死に逃げた。
ーーーそして静岡にいるおばさんに電話した。
「この前の話、引き受けます。」
と。

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それからどうやって文化祭を過ごしたのか分からない。
ーーー覚えていない。
環にも双葉にも誰にも見たことは言えなかった。
ーーー一時期流れた先輩の彼女の噂、
すっかり忘れていたけどまだ存在していたなんて自分の口からは言えなかった。

長身の先輩に似つかわしい長身のモデルみたいな女性だったーーー・・・。
切れ目の目に長い髪の毛、
足も長い、そんな印象を受けた女性。
そんな人と抱き合ってた・・・。
きっと誰も来ないと思って選んだ体育館に、
まさかの後輩の私が来るんだもん、
先輩もビックリしたよね。

「はは・・・失恋決定・・・」
自分の任務だけきちんと仕事して、
足早に新幹線に乗った。
叔母さんに一度帰ってこいと言われたから。
きちんと話をまとめましょうと言われたから。
《 おばあちゃんの家に行ってくるね。》
剛くんにはそうメールをして、
私は実家に戻った。

私が帰宅したのは月曜の夜、
剛くんはなぜ実家に戻ったのか、
何を話して来たのか、
色々聞いてきたけど、
私は答えなかった。
ーーー正確には答えられなかった。

もし実家での話をしたら剛くんはきっと私を守る。
昔から私のスーパーヒーローだから。
もし本当のことを話してしまったら、
お姉ちゃんがきっと自分を責める。
きっと身代わりになると言い出す。
だから何も言わないーーー・・・。
誰にも何も言わない、
そう決めたの。

火曜日の登校日、
私は担任を通して校長室に呼ばれた。
そこには叔母さんもいた。
ーーー仕方ない、良いの。
「年度末で退学ということでよろしいですか?」
「えっ?」
話が違う、そう思った。
「その方向でお願いします。姪は転校させますので。」
「ど、どういうこと?高校は出て良いって言ってたよね?」
「ーーー高校は出ても良いと言ったけど、相手の高校に編入してもらわないと困るのよ。分かってちょうだい。」
ここで叔母さんとの討論を広げるわけにもいかず、
私はその場で息を飲み込んだ。
「ーーー分かりました。」
「ならそういうことで良いんですね?」
校長は私にもう一度確かめた。
ここの校長先生は生徒思いだと思う、
だからこの高校に入って良かったと思ってた。
叔母さんの言うことを聞くことはできただろう、
だけど私を呼んだのは私の意見もきちんと聞こうとしてくれたからなんだと思う。
「ーーーはい」
私はどこに視線をやることもなくそう伝えた。
もう良いやって、思った。
10年前のあの事件で、
死んだも同然の私が生きている、
それだけで奇跡なんだから、と。

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