【 君がいる場所 】#05. 2人の関係*。

君がいる場所

#05. – Itsuki Side –

ーーー バババーン ーーー
大きな雷が体育館に響いた瞬間、
体育館を出たばかりの柊の悲鳴をも館内に響いた。
何事かと俺たちは焦った。
だが・・・
雷を聞いた瞬間、
剛コーチは「自主練してろ!」と叫んで体育館から走って彼女の方に向かった。

オレが柊を意識したのは入学式ーーー。
桜の木に今にも登りそうな面白い子がいると思った。
必死に手を伸ばしても届かず何度転んでも挑戦している、
そんな姿を何度か見かけるうちに彼女を見つけるのが楽しみの一つになった。
最初はそれだけの感情だったーーー。
環たちの友達として出会うまでは。
自分に笑いかける笑顔じゃなくても、
彼女が笑うだけで胸がえぐられるようになったのはいつからだろうか。
須永が彼女の話を出すたびにイラッとしたのはいつからだろうか。
ーーー直接会話したこともないのに、
オレは彼女に好意を寄せてしまった。
だから彼女と仲良くしている環にBBQ誘うように頼んだ、
少しでもオレを知ってもらいたくて。

あの日、本当は告白するつもりでいた。
ーーー環と正樹はそれを知っていたからオレたちを2人にしてくれた。
だけど彼女がいると信じ込んでいる柊に何も言えなかった。
ただただ彼女の動作ひとつひとつが愛しくて可愛いと思った。
だからだろう、
コーチと彼女の関係がなんとなく特別にあるように感じたのは。
オレが彼女に好意を寄せているからこそ分かる違和感。
ほとんど話したこともないはずなのに、
彼女はコーチを知り尽くしている、
そんな気がした。
コーチもコーチで何かと柊のことを環に聞いていた。
ーーーだから何かあるとは感じてた。

「コーチ!」
自主練しろと言われて簡単にできるもんでもなく、オレはキャプテン失格と言われようが後を追いかけた。
「花!」
だけどコーチはオレの声に振り向くこともせず、
柊の元へと走った。
ーーー当たり前のように彼女を抱きしめるコーチは本当に愛しい人を抱きしめる、そんな男性の顔に変わってた。
「今・・・花って言った?」
女子も同じで環が何故かオレの隣にいる。
その隣にいる須永と今目にしている状況について話している。
「・・・言ったな。」
どういうことよ!?と須永にバンバン叩いてるけど、
須永も全くこの状況を理解してないようだった。

ただ状況的に理解できたのは、
柊が雷が苦手なことをコーチは知ってた。
だから雷の音が鳴ったと同時に体育館から走り去った。
ーーーこの状況だけでも2人が知り尽くしている関係だと誰にでも分かることだろう。

「ちょっと待って、理解出来ないんだけど・・・」
「そういうことなんじゃねーの?」
理解出来ないという環にオレは冷たく言い放った。
オレだって理解できねえし、したくないわ。
「だって・・・花の好きな人はコーチじゃない。他にいるし・・・」
オレをチラッと見る環。
「知らねーよ。練習に戻るぞ。」
イライラがおさまらなく、オレは環に八つ当たりをした。

結局、その日コーチは戻ってこなかった。
正確に言えば柊と帰ったらしい。
ーーーおかしいだろ、こんなの。
そんな思いを胸にオレはその日の苛立ちを隠すこともせずに練習に打ち込んだ。

そしてお盆休みに入り、
オレは正樹の家族と合同で熱海旅行に行った。
ーーー父さんと母さんが部屋でくつろいでる間、
正樹や弟と海で泳いだ。
「ーーーお前もチキンだよな(笑)」
「は、何が?」
「告白できなかったんだろ(笑)で、今はコーチとの関係が気になってるって言ったら良いか?(笑)」
「ーーー別にオレは気になってなんかねえよ!」
「じゃあ本当に柊さんとコーチがそういう関係でも納得出来るってわけだ?」
ーーー出来るわけがない、
先生と生徒だぞ、とオレは心の中で叫んだ。
「うるせえな・・・」

「一昨日、コーチと柊が歩いてるのを見かけた部員がいる。」
「はっ?」
正樹は無の表情でオレに伝えたーーー。
「楽しそうにスーパーで買い物してたってさ、ほら写真。」
そう言って携帯から一枚の写真を見せて来た、
2年の後輩が送って来たらしい。
そこに映る柊は安心し切った様子でコーチを見つめ、
コーチも学校では見せない優しい笑顔を彼女に向けていた。
「これでもお前は何も気にしないって言えるのか?」
「・・・何が言いたいんだ?」
「気になるなら本人に確かめろってことだよ。だからチキンだって言ってんだよ。」

オレは人と会話をする方ではない。
むしろ無言の圧を与える人間だーーー。
それは人と話すのが嫌いなのではなく、
人の気持ちに寄り添うことで傷つくことを恐れているからだ。
変に期待してしまったり、
逆に期待されてしまうことがめんどくさいと思ってるからこそ人と話すことを避けている。

それを正樹だけは裏切る。
ーーー小学校からずっと同じバスケ部の正樹とは最初は意見が合わなくて喧嘩ばかりだった。
合わせてわけでもないのに中学も高校も同じで腐れ縁となり今では親友と呼べる仲にもなった。
正樹はオレが考えてることをほぼ察する。
だから柊のこともこいつなりに応援してくれているんだと思う。

「人を滅多に好きにならない樹が恋をしたんだ、そりゃ応援もしたい。だがもしコーチが本当にその相手なら勝ち目が薄いと言えるほどオレはコーチは魅力的だと思う。だけどお前のまっすぐな気持ちはきっと柊に伝わると思ってる。」
「ーーー分かってるよ、気持ちにケリをつける、そのつもりでいるから。」
オレのお盆休みは、
正樹と恋の話で終わった。
女ほど多くはなくても、
男だって恋に落ちるし、
友達同士で恋バナはするんだ。

「ーーーえ、先輩?」
お盆休みが終わり、オレは須永たちと飯に行く約束をしていたのでその前に服でも見ようかと駅に向かって歩いてた。
「ここで何してんの?」
男女兼用の服が置いてある店で、
まさかの出来れば今は会いたくない柊に会った。
「もうすぐ姉の誕生日で、アクセサリーを買いに来たんです。ここのブランドが姉、好きなので・・・」
言われてみれば彼女は両手にネックレスを持っている。
「へぇぇぇ、姉ちゃん幸せだな。」
「いえ、そんなことないです!年が離れてるので、甘やかされて・・・。この高校も姉の母校だから選んだんです。」
「えっ、そーなのか?!」
「はい。ちょうど良かった!わたし、浜松に行ってて先輩にお土産買って来てて会えたら渡そうと持ち歩いてたんです。」
自分の腰にかけている小さなショルダーバッグに手を入れてそこからキーホルダーを渡された。
「ーーーありがとう。」
「気に入らなかったら捨てちゃってください!」
焦った様子でオレの手に乗せて、
アクセサリーを元に戻しその場から去ろうとする。
オレは咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「今から須永たちと飯を食う、一緒に行かないか?」
「いえ、私はこれから予定があって・・・」
時計を確認しながら柊はオレに伝えた。
オレはなんとなくコーチと関係してるように思った。
だけど臆病なオレはそれ以上の追求が出来なかった。
そのまま彼女を解放し、
須永たちが待つレストランに向かった。

「コーチがなんでここにいるんですか笑」
レストランに到着してオレは驚きを隠せなかった。
なぜなら、コーチが目の前にいたからだ。
ーーー先程のオレの予想は外れたということになる。
「本屋で会ったんですよ!暇だっていうから連れて来ちゃった!(笑)」
お茶目風に須永が言っても可愛くもなんともない。
「昼飯食ったら帰るよ(笑)熱海はどうだった?」
「楽しかったですよ、正樹とずっと一緒で萎えましたけど(笑)」
「ーーー学校の女子が聞いたら羨むメンツ2人だな(笑)」
正樹が来るまで何故か俺たちの熱海旅行の話題で盛り上がり、
そこからコーチの大学の話へと移動した。

東京で生まれ育ったコーチは大学4年間だけ大阪に行ったらしい。
そして母校の俺たちの高校に教師として入ったと。
「そういえばさっき柊に会って、お姉さんの母校だって言ってました。ご存知ですか?」
「ーーーえっ!そーなの?!てか花に会ったなら連れて来てくださいよ!使えないなぁ・・・」
お前に言われたくない、と内心思っだがオレは環に何も言わなかった。
「柊の姉ちゃん?柊 愛梨のことか。そりゃもうよく知ってますよ・・・オレが3年の時、一年のバスケ部だったよ。ほんと負けず嫌いで生意気なやつで、柊 花と真逆の性格だわ。」
柊 愛梨・・・。
名前は聞いたことはあるけど、
多くの卒業生の顔を見たことはあるのにこの人は卒業してから一度も顔を出してないらしくて在校生の俺たちはあまり知らなかった。
図書館に行けばアルバムとかあるんだろうけど、
そこまでの興味もない。
「だからコーチと花も前々から知り合いだった?」
オレが聞きたいことをズバリの環が聞いた。
その質問の直後に正樹が到着したから、
一瞬沈黙が出来たけどコーチは隠すこともなく話した。
「ーーーこの前の雨の日のことか。」
「そーですよ!恋人かと思っちゃっだけど、花には好きな人いるし・・・」
「・・・だな(笑)恋人ではないな(笑)アイツはオドオドしてて大人しいから放っておけないというか、守ってあげなきゃダメだという思いが生じる(笑)お父さんみたいな気持ちって言ったらわかるか?」
「ーーー全然わかんない!」
「簡単にいえば花とオレは長い付き合いで、かなり昔から知り合いなんだよ。だからあいつの好きなものも嫌いなものも苦手なもの、なんでもお見通しってこと。雨の日のことは、そういうことだ。」
ーーーつまり、雷が苦手だと知っていたから放っておくことはできなかったとコーチは言ってる。
「そこに特別な感情はないんですか?」
「あったら同じ高校で先生と生徒やってないわ。言っておくが、アイツがこの高校に通いたいって言ったんだからな?」
なぜか無駄に納得してしまった俺たちがいた。
ーーーまあコーチと柊が恋愛関係でないことがわかった、
それだけでも一歩進んだような気がした。

「柊の好きな人って誰なんだろうな。」
「ーーーさあ、オレに聞かれてもオレが聞きたいわ。」
正樹と帰り道その話になった。
コーチが相手じゃないなら柊の好きな人は?
「ーーー案外コーチのことを好きってこともありえるか。」
「お前なぁ・・・笑」
人を茶化すようにからかい続ける正樹と、
自宅まで一緒に帰った。
ーーーいや、むしろ正樹は夕飯まで食って帰った。

お盆以外のほとんどの夏休みを部活で過ごし、
休みの日は花火大会に行ったりお祭りを探してみんなで行くーーー。
時に部員だけでの海やBBQを何回かやった。
その甲斐あって、
俺たちはみんな真っ黒に焼けて新学期を迎えることになった。

そんな夏休みがあっという間に終わり、
9月の初め、
新学期が始まった。

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