#04.
BBQが終わり、
また私はとてもやることのない夏休みを過ごす。
環たち女子バスケと男子バスケは夏祭りと花火大会に行ったことを最近教えてくれた。
・
剛くんは相変わらず忙しい毎日を送ってて、
学校で仕事をしたりコーチをしたりで、
教師に夏休みなんて関係ないんだなと思った。
私は剛くんが仕事に行ってる間、
ほぼ毎日自宅から出ることはない。
ほんの稀に買い出しに行ったり、
駅ビルに雑貨を見に行ったりするくらいだ。
ーーー今日は来週から始まるお盆休みで、
おばあちゃんの家に行くからその手土産を買いに駅ビルまで来た。
私のおばあちゃんは東京から少し離れた静岡に身を寄せている。
元々東京の女で、
お母さんもお父さんも生前は東京にみんなで暮らしていた。
私も小さいながらに記憶がある。
だけど3年前、私のおばさんに当たるお母さんのお姉さん家族に呼ばれて移住した。
ーーー今は茶畑を営んでいるんだって。
「ーーーもしもし、どうしたの?」
1人お茶をしながらおばあちゃんと暮らしていた時のことを思い更けていると、
仕事中のはずの剛くんから電話が入った。
「悪い、今平気か?」
「ーーー大丈夫、どうかしたの?」
「オレの机の上に茶色の封筒があるんだけど、学校に持って来れるか?これから部で使うものなんだけどないことに今気づいて・・・」
「いーよー、ついでに差し入れかなんか持って行くね。」
「ーーー悪いな。体育館にいるからよろしくな!」
一応怪しまれないように私は男女合わせて20個のプリンを買って、自宅に戻って、茶封筒を手にして学校に向かった。
私服で行く学校はなんだか緊張する。
当たり前に通ってる学校が当たり前じゃない、
なんかそんな感じでとても不思議だった。
私は教室にも寄らずに、
正門からすぐ近くにある体育館に近づく。
夏休みだから校庭でサッカーの練習をする学生たち、
体育館から聞こえる活気ある声もとてもよく聞こえた。
不法侵入に思われないかな、と不安を抱えながらそっと私は体育館に近づく。
そっと覗くと剛くんが身を乗り出して指導してる姿が見える。
女子コーチも負けじと指導して環たちの普段見れない真剣な眼差しが目に見えるけど、
どうしてか自然と男子の方に目がいってしまう。
ーーーその中でやっぱり目で追ってしまうのは樹先輩だった。
あのBBQで言ってくれた言葉をまた思い出し、
胸の高鳴りを感じた。
・
「花?!」
そっと覗く私に気がついたのは環だった。
「ごめん、邪魔するつもりはないんだけど少し用があって近くまで来たから見て行きたいなって思っちゃって・・・これ、差し入れ。みんなで食べて。」
環は声が大きいからその一声で剛くんも私が来たことに気がついてジェスチャーでありがとう、とされた。
「えーー!せっかくだから見て行きなよ!ほらそこ座って座って!」
ベテラン並みに私をベンチに座らせてくれた環の貫禄ある姿に感謝をしたい。
「じゃあ休憩にしましょうか。ーーー私が戻るまで休憩ってことで!」
女子コーチはそう言って体育館を去る。
いつもそうなんだって、休憩を取る時は体育館からいなくなり練習が始まる時に戻ってくる。
ーーーそれに比べて剛くんは、
もうみんなと一緒に楽しそうに食べちゃってるよ。
責任感の違いなのか、
精神年齢の違いなのかわからないけど、
剛くんらしいと思って微笑んだ。
「ーーー先生、これ。」
「ありがとう。」
一応学校では先生と生徒、外では幼馴染の私たち。
場をわきまえているつもりだから、
呼び方もきちんと変えている。
環たちに隠しているつもりはないけど、
幼馴染の同居は学校的にタブーだと思うし、
どこから広がるかわからないしね。
私たちは一瞬目が合い、微笑んだ。
ゴメンとまた相槌をされて私は頷いた。
「なんかめちゃ雨が降りそうだぜ!サッカー部が退散してるわ!って柊?!どしたの?」
トイレから戻ってきた須永くんが体育館に戻ってきた。
「差し入れ持ってきたの、須永くんも良かったら食べて。」
「柊が来てくれるなんてやったー!今日良いことありそうだぜ(笑)遠慮なくいただきまーす!」
いつも元気な須永くんは今日も調子が良さそうだ。
「・・・雨降りそうなら私はそろそろ帰ろうかな。」
「またいつでも来てよ!」
須永くんは私が行くこと、大歓迎してくれるようだった。
「練習頑張ってください。」
私はみんなに挨拶をして体育館を出た。
・
確かに外は少し薄暗くて肌寒いーーー。
不気味な暗さで私の苦手な暗さだ・・・。
そうは言っても帰るしかないから、大きく深呼吸して足を進めようとした時。
ーーー バババーン!!! ーーー
大きな雷が鳴り、
私は「キャァっ!」という悲鳴と共にそこにうずくまった。
怖い・・・
光が怖い、
音が怖い・・・。
一度しゃがんでしまったらもう立ち上がれなくて、
呼吸が荒くなってくるのを感じる。
大丈夫、大丈夫・・・
そう言い聞かせても、
10年前の事故をどうしても思い出してしまう。
「花!」
足がすくむ私を、
すぐに駆けつけてくれた剛くんは抱きしめてくれた。
何度も大丈夫だから・・・と言い聞かせてくれた。
私はその姿に安堵を覚え、
ここが学校ということを忘れて身を寄せた。
ーーー大丈夫、もう大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら。
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