【 君がいる場所 】#03. 胸の高鳴り*。

君がいる場所

#03.

先輩を好きだと自覚してから、
先輩が夏休みをどう過ごしているのか少し気になった。
噂で流れていた彼女と過ごしているのかな、
それを考えるだけで胸がチクリと痛むからもう考えるのはやめることにした。

「3時には病院に着くようにするからな。ごめんな、こんな日に限って部に顔を出さなきゃならなくて。」
「ぜーんぜん、のんびり過ごしてから私も向かうー!」
夏休み入ってすぐ、
私は足の定期検査があった。
事故で足を負傷したものの今でもリハビリを続け、
今でも時折レントゲンやCTを撮っては足の状態を確認している。
本来なら剛くんが付き合う必要はない、
親戚でもなんでもない幼馴染だから。
だけど仕事で忙しいお姉ちゃんに頼まれていることもあって、
必ず剛くんの仕事が休みの日に合わせている。
だから本当は今日も休みだったんだけど、
急にチームミーティングが入ってしまった。
お昼を食べてすぐに学校に向かった剛くんを見送り、
私はのんびりと溜めておいた録画を見始めた。

結局、ミーティングが終わらなかった剛くんは病院に来れなかった。
何度もゴメンと電話で言われたけど、
本来は剛くんがやるべきことじゃないからねと思ってた。
ーーーそれに結果は何も問題なく良好だったから、
次の検診の一年後までは経過観察となった。
もちろん何度かリハビリには通うけど、
そんなの私は負担にも感じないから全然大丈夫。

「ほんとゴメン!」
「大丈夫だって、本来は剛くんは関係ないんだからそんなに謝らないで?」
帰宅して早々に謝罪してきたけど、
私は何度も剛くんに謝らないでと伝えた。
逆にそんなに謝られるとこっちが申し訳なくなるとも。
「お詫びと言ってはなんだが、来週バスケ部でBBQするぞ!花も来い!」
「無理無理無理!完全部外者じゃない、わたし!」
「大丈夫!環から誘いが来るはずだし、それに部員の彼女だったり彼氏だったりみんな呼んでる。」
「ーーーお姉ちゃん呼んだの?」
「声かけたけど仕事だってさー、仕方ねーよ(笑)」
・・・わたしが知る限り剛くんとお姉ちゃんは一ヶ月以上は会ってない。
寂しくないのかな、会いたくないのかなって思う。
「会いたくならないの?寂しくない?」
「会いたくないって言ったらウソになるけど、愛梨は愛梨で頑張ってんだからさ。応援してやらねえと、とは思う。」
強いなぁ、って思った・・・ーーー。
きっとわたしならすぐに不安になって逃げてしまう、
そんな気がした。
「それに泣き言言ってたら愛梨に怒られそうだろ?笑笑」
「ーーー確かに(笑)」
お姉ちゃんは良い意味で意思ががしっかりしてる、
悪い言い方で言うと物事をはっきりいう強い人。
私と正反対の性格だけど、
この性格にわたしは何度も救われてきた。
剛くんもそんなお姉ちゃんを好きになったんだと思う。

その夜に本当にわたしは環から誘いを受けた。
断る理由もなくもちろん引き受けた。
そこから水着を新調しに環と双葉と夏休みに会ったり、
3人でお揃いの洋服を買ったりした。
ーーー露出が強い環に対して、
背中の傷を見せるわけにいかないわたしは色んな理由を考えるのが本当に大変だった。
傷のことを隠してるわけじゃないけど、
わたしがあの日のことを思い出すとまだ心が整理できていないからきっと壊れてしまう。
だからまだ言えないでいるんだーーー・・・。

迎えたBBQの日、
わたしは怪しまれないように剛くんと別々に家を出た。
ーーー車で向かった剛くんに対し、
わたしは環たちと最寄りで待ち合わせをして電車で向かった。
「3人お揃いの服なんだな!可愛いじゃん!馬子にも衣装だな笑」
現地について須永くんが放った一言に、
環が怒り追いかけ回している現在、
この2人が小学生にしか見えないーーー。
剛くんが大量のお肉を持ってきて、
正樹先輩のお兄さんも大量のお肉にいろんなセットを持ってきてくれていたことでBBQが始まった。

やっぱり炭で焼くお肉は格別に美味しい、
その場の雰囲気や一緒に食べる人がいるっていうのも大きいけどいつも焼くお肉よりも格別に美味しさを感じる。
「ーーーやべっ、飲み物車に忘れた!柊!」
「はい!」
「これ、鍵!悪いけど取ってきてくれるか?」
「はい!」
突然大きな声で叫ぶと思ったら私ご指名・・・。
お肉食べていたんだけど!?とは言えずに素直に応じる私は優しいと思う。
「柊1人じゃ重いか・・・。樹!柊の手伝いお願い出来るか?」
「はい。柊さん、行こうか。」
ニヤッと笑いながら剛くんは私を見た。
・・・絶対わざとだ、
私が樹先輩にあこがれているのをしってるから、
剛くんなりに仲良くさせようとしてくれているんだと思った。
私は剛くんにお礼の会釈をして、
樹先輩の横に並んだ。

「ーーー先輩はお1人で来たんですか?」
特に話すこともなくてわたしは思いついたことを聞いた。
「そうだけど。」
「わ、わたしは環が誘ってくれて!」
「ーーーだろうな。」
どうしよう、先輩との会話が続かない。
致命的だと思った。
その時、眩しい太陽が一瞬光った気がした。
空を見上げるわたし・・・ーーー。
そこにはまたお父さんとお母さんの笑顔、
手を振ってくれている姿が私には見えて幸せを感じた。
「空が好きなのか?」
「えっ?」
「この前も、そうやって空見て笑ってたなぁと思ってさ。」
「ーーーそうですね、割と好きです。」
先輩はそれ以上は何も聞いてこなかった。

剛くんが持ってきたジュースはトランクに大量にあった。
確かにこれは1人では運べない、と思った。
「・・・あの人買いすぎだろ(笑)」
「ですね・・・心配性ですもんね。」
「えっ?コーチと話したことあるのか?」
「えっ、えっと・・・そんなにはないんですけど、環たちの話を聞いてて思いました!」
ボロが出るかと思いめちゃくちゃ焦ったけど、
先輩はなんとか信じてくれたようだった。

みんなのところに戻りながら思った。
ーーー絶対に先輩と仲良くなんてなれないって。
話すことも見つからなければ緊張しちゃう、
絶対無理だって確信を持ってしまった。

飲み物を渡して、
自分の力不足に少し凹んでた。
みんなが楽しそうにビーチバレーをしているのも、
参加できない自分。
体育はかろうじて参加するけど、
ビーチバレーは足を取られるから剛くんに反対された。
「ーーー次!バナナボードやりたい!」
3年チームに負けた環は、
今度は違う遊びがしたいと見つけた。
バナナのようなボートに数名で乗る。
これこそ危険な気がする・・・。
落ちたら致命的では?とわたしは思った。
「俺はパスする、ここで待ってるわ。」
樹先輩は疲れたのか興味ないのか分からないけど、
わたしが座る場所から少し離れたところにドサっと座った。
「花は?やる!?」
「ごめん、私も怖いかも・・・」
「良いよー!2人で仲良く待っててね!」
ニヤッとして環はみんなとバナナボートに消えた。

残された私と先輩、
何をどう話せば良いのだろうかと路頭に迷った。
「ーーー何か飲みますか?」
「大丈夫。サンキューな。」
「いえ・・・」
「今日の髪型、いつもと違うんだな。」
朝からずーと同じ髪型だけど、
いつもの二つ結びじゃなくてアップにしてるの気がついてくれていたんだねと嬉しかった。
「気がついてくれていたんですね、変ですかね?」
「ーーーすごく似合ってると思うよ。」
私に視線を合わせて言った先輩の言葉、
胸の高鳴りを隠せなかった。
「ありがとうございます。ちょっと照れますね(笑)」

「ーーーずっと疑問に思ってたことがあるんだけど、柊さんは裏庭にいること多いよな。裏庭に何かあるのか?」
えっ、見られていたんだ・・・。
「見られていたんですか?!」
「あの真上が俺の教室なんで・・・」
「そーなんですね。私空を見るのが好きでってさっき話したと思うのですが、裏庭から見る空が木とマッチして1番綺麗なんです。」
「だから・・・入学式の日、桜の木の下でジャンプして転んでたよな笑」
「あはは・・・届きそうで届かない、そんな感じです(笑)」
「ーーー可愛いと思ったよ。」
「えっ?」
また胸がドキンと高鳴りを鳴らした。
「あの時の柊さん、すごく可愛いと思ったよ。」
ーーーダメダメ、真に受けちゃダメ。
先輩は彼女いるでしょ。
「またまたご冗談を・・・そんなこと言ったら彼女さんが悲しみますよ(笑)」
「彼女?ーーーああ、勝手に流れた噂か。」
「みんな信じてますよ(笑)」
「ーーーあれは・・・」
先輩が何かを言いかけた時、
奥から2年生の先輩が樹先輩を呼ぶ声が聞こえた。
ーーー不服そうではあったけど、
先輩は彼らの元へと走った。

私は先輩が去ってホッとした、
安心して肩を撫で下ろし、
体育座りの膝に頭を乗せた。
ーーーだって心臓に悪いよ。
先輩と2人だけでも緊張するのに、
似合ってるとか可愛いと思ったとか・・・
普段の先輩では考えられないことを言われて、
胸の高鳴りを抑えることができなかった。

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