【 君がいる場所 】#16. 和解*。

君がいる場所

#16.

病院での診察はいつもと同じようにレントゲンを撮り先生とのお話だった。
ーーー今日は足に負担をかけないためにリハビリはなかったのですぐに終わった。

お会計を済まし、
念の為に痛み止めをもらった。
先生からはしばらくの体育は絶対禁止という命令も下された。
ーーー自業自得だとお叱りも受けた。
「ーーーよお。」
病院を後にして、ゆっくりバス停まで歩く。
「えっ、先輩?なんで?」
そしたら病院の入り口に学ランを着て立ってる先輩の姿が目に入った。
「コーチに託された、のと心配で来てみた・・・」
少し気まずそうに話す先輩、
でもそんなことも嬉しく感じる私はおかしいのかな。
「あはは、ありがとうございます。」
私たちは横並びにして歩き出すーーー。
えっ・・・ーーー。
先輩が突然私の手を握るから私は驚いて先輩を見た。
「いやか・・・?」
「いえ、嬉しいです・・・」
私は恥ずかしくて目を逸らしてしまったけど、
そのお返しに先輩の手を握り返した。
先輩は転んだら大変だから、と言い訳していたけど珍しく顔が赤くなっていたから私と同じように恥ずかしいんだなと思うと何故か心臓がくすぐったくなった。

「明日は学校来れそうなのか?」
「ーーー行きますよ。これくらいで休んだりはしません、足は弱くても負けず嫌いなんで!笑笑」
「はは・・・頼もしいな笑」
時間通りに来たバスに乗って、
私たちは学校の最寄り駅まで向かう。
「ーーー足のこと黙っててすいませんでした。」
「別に言わなきゃいけないことでもないだろうし。それよりも痛みは大丈夫なのか?」
「ーーー今はだいぶ。」
「少しは痛いってことか?」
「ーーーそうですね。でもほんの少しです。」
「・・・そっか。もう無茶はすんなよ。」
「ーーはい。」
最寄りの駅で降りて、
マンションまでほんの10分程度歩く。
ーーー先輩も帰りがてらだからと一緒に帰ってくれていたけど、
なんとなく送ってくれているのかなとは思った。

「ーーーじゃあ、ここで。」
そして本当にマンションの下で先輩は帰ろうとした。
もう?ここまで来て帰るの?
なんて思った私はきっとお門違いだろう。
でももう少し先輩と一緒にいたいと思っちゃダメかな。
「あのっ!」
マンションから姿が見えなくなる一歩手前で、
私は最大級の大きな声を出して先輩の方に駆け寄った。
「おい、走るな!」
小走りする私を見て焦った先輩は、
逆に少しこちらに戻って来てくれた。
「無理すんなって言ったばかりだろ?!」
「すいません、でも先輩が見えなくなりそうだったから・・・」
少し怪訝な顔をしながらも優しい表情をしてる。
「で、何だ?」
「ーーーまだお時間あるなら寄って行きませんか?」
「オレが?柊の家に?」
驚きを隠せない様子の樹先輩。
「えっ、ダメですかね?」
「いいのか?・・・コーチに怒られたりしないか?」
「いや?特にしないと思いますけど・・・?」
別に何かをするわけじゃない、
もう少しだけ一緒にいたいと、
話をしたいだけだからと私は伝えた。
「1時間、お邪魔させてもらうかな・・・」
戸惑う先輩が見えたから断られるかなと思ったけど、
悩んだ挙句先輩は私の家でお茶をしていくことを決めてくれた。

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帰宅して早々、
座ってて良いと言われたけど、
お茶だけ出させてもらいソファに横がけに座った。
「ーーーコーチも住んでると思うと何だか緊張するわ。」
あー、だから先輩は家に上がることを渋ったのかなと思った。
「普通の人ですよ?学校では偉そうにしてても、脱ぎっぱなしだったり片付け出来なくていつも私に怒られています(笑)」
「意外だな・・・笑。でもコーチとは自然体でいられるって羨ましいな(笑)」
先輩はボソッと言った・・・。
「あのっ、この前はひどいことを言ってすいませんでした!色んなことが重なってたこともあって、先輩の気持ちを何も考えずに発言してしまいました。本来なら先輩が教えてくれた貴重な場所、喜ばなきゃ行けなかったのに・・・」
「それは良いけど、連絡つかなくなったり会うことを拒否したりするのはやめてほしい。」
「ーーーすいません。」
「それと言いたいことがあるならハッキリ言ってくれて構わない、それくらいで柊を嫌いになるとかは絶対にないから。」
「ありがとうございます。」
私は先輩に微笑んだーーー・・・。
そんな私を先輩は抱きしめた。
「今日ーーー・・・マジで心臓止まるかと思った。須永から呼び出し来た時、本気で焦った。2度とこんなことはしないと約束してほしい。」
「ーーーはい、約束します。」
「だけど柊の気持ちはすごく嬉しかった、ありがとう。」
「ーーー私のほうこそありがとうございます。」
私と先輩は見つめあって唇を交わした、
何度も何度も唇を重ね合わせた。

幸せだなと思ったーーー。
10月から付き合い始めて、
まだ3ヶ月・・・。
ケンカという喧嘩のなかった私たちだけど、
今回大きな喧嘩をした。
きっとそれで諦めてしまう人たちも多いけど、
先輩は私ときちんと向き合い、
話し合いもしてくれた。
諦めないで私のそばに付いていてくれた。
だけど何よりも嬉しかったのは、
体育館の前で・・・
みんなの前で、堂々と私を好きだと宣言してくれたことだった。
「何だよ?」
「思い出し笑いです(笑)嬉しかったです、先輩が体育館で宣言してくれたこと・・・」
「ーーー考える余裕もなかったけど死ぬほど恥ずかしかったわ。」
「ふふ、嬉しかったですよ?」
私は先輩の腰に抱きついたーーー。
しっかりとした骨付き、
無駄な贅肉がない鍛えられた体、
居心地が良くてずっとこうしていたいとさえ思う。
「ーーー柊と出会って・・・自分らしさを失ってる。責任取れよ?(笑)」
そう言って先輩はもう一度私にキスをしたーーー。
何度も何度もキスを重ねた。

確かに先輩は無口なイメージだった。
同じバスケ部の須永くんや環でさえも先輩の素性が理解できないと言ってたほどに無口な人だった。
最初の印象も無口なイメージ、
話しかけにくい怖いイメージだった。
話すたびにそれが裏切られて、
私は相手を知れば話してくれる人なんだと知った。
ーーー話すのが苦手なんじゃなくて、
今がある話をしようとする人なのかなと思った。
私は良い意味で裏切られたんだと思う。
でもやっぱり印象は無口だから、
きっと体育館のあの場にいた人たちみんなが先輩の発言には驚いたんじゃないかな。
公の場でああいうことを言う人だとはきっと思ってなかったと思うから。
それは私も同じ、
だけど私はあの言葉にすごく救われた。

次の日の朝、
私は先輩と登校した・・・ーーー。
頼んだわけじゃない、
だけど偶然会った・・・。
にしては出来すぎているからきっとまた剛くんに頼まれたのかなとは思ってる。
「明日も明後日も帰りは下校が違うから難しいけど、朝は一緒に行きたいと思う。」
それは嬉しい提案だけど、
先輩の負担にならないかなと不安がよぎる。
「でも・・・」
「確かにきっかけは昨日のことだけど、俺が一緒に行きたいと思うんだ。」
ハッキリ先輩はそう言った、
そんなこと言われたら断るわけないじゃないか。
ーーーよろしくお願いします、
そう伝えた。

「今日モデルのHANAが来るんだって!知ってる!?」
そんなある日、
とびきりのニュースが学校に流れた。

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