【 君がいる場所 】#15. 本気の対抗試合*。

君がいる場所

#15.

先輩と私が別れたと噂が立ち始めてまだ3日、
それでももう先輩が告白されている姿を目にすることがある。
ーーー正直、見るのはつらいけど・・・
目をつぶって過ごしていくしかないのかなと思う。

「えっ!?今日正樹先輩たちと合同体育なの!?ラッキーじゃん!拝める!(笑)」
そんな時に聞こえたクラスの女子の会話。
ーーーそう、今日は1時間目から体育で私は憂鬱だったのだ。
女子の話では1年の体育の先生がお休みだから急遽3年生と合同になった、とか。
代理を立てればいいのにって心の中で思ったことは内緒にしておこうかな。
それよりも私は正樹先輩の名前を聞いて心臓がドキッとした。
ーーー正樹先輩と樹先輩はクラスが違うのに、
体が自然に反応してしまうのは樹先輩病だなと思う。
憂鬱な気持ちのまま体育着に着替え、私たちは体育館に向かう。

「柊さん、ちょっと良いかしら?」
体育館で双葉と二人隅の方で今日の体育について話していた。
ーーー1年生と3年生の対抗試合をするらしいという情報を須永君情報で流れてきた。
バスケ部の環や双葉にとっては得意中の得意分野だけど、
運動苦手な私としたら迷惑かかるから見学にしようと決めたばかりだった。
そんな話をしている時に3年生の先輩が私に話しかけてきた。
ーーー何の用事だろう?
「えっと・・・はい。」
私の前に立つ3人の3年女子たち、
隣にいる双葉がそのうちの一人が引退したばかりのバスケ部であることを耳元で教えてくれた。
「単刀直入に言わせてもらうわね。樹くんととっとと別れてくれないかしら?」
バスケ部の先輩ではない別の女性が私に言った。
「えっ・・・」
戸惑いを隠せない私はハッキリした返事を返すことが出来なかった。
別れたっていう噂が流れていたと思うけど、まだそう思っていない人もいるんだと思うと少しだけホッとした自分がいた。
「別れたって聞いてるんだけど・・・この子が告白したら彼女がいる男によく告白で来たなって罵倒されたのよ。」
「ーーーそれって花に関係ないですよね?樹先輩と先輩の問題であって花は関係なくないですか?」
ーーーつかさず近くにいた環が割り込んだ。
「環、良いよ。大丈夫だから・・・」
空気を悪くしたくなくて私は苦笑いをこぼす。
それに不謹慎だけどその言葉を聞いて、まだ彼女だと思ってくれていることがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
「・・・それだけじゃない。あなた佐藤コーチとも仲良いわよね?一緒に買い物しているところも見かけてるし、同じアパートから出てくるところを見た子もいるの、どう説明するつもり?」
「どう説明って・・・どうもこうもなにも・・・」
「言い訳が欲しいんじゃないの。私たちは樹くんが好きなの、だから彼を振り回すならもう諦めて欲しいって言いたいの。」
冷静に優しそうに伝えてくる先輩たち、
だけど・・・
内心は凄く怒ってるのがヒシヒシと伝わって来た。
「わたしは・・・振り回しているつもりなんて・・・」
「じゃあ私が彼と付き合っても何の問題もないわよね?」
「・・・それはいやです!」
樹先輩が承諾するかも分からないのに、この人に取られたくないって気持ちが勝って私は即答した。
「何ですって?」
「私だって樹先輩のこと好きです。確かにケンカしちゃったけど・・・好きな気持ちは簡単には・・・」
気が付けば私は立ち上がり、
先輩たちと同等に立ち上がって真剣に伝えたーーー。
「・・・樹くんも佐藤コーチもだなんて虫が良いと思わないの?」
バスケ部の先輩が少し切れた顔つきで私を睨んだ。
「そもそも佐藤先生とはそういう関係ではないです。」
「そういうことじゃないのよ。私たちにこう思われているってことは他にも思っている人たちがいるってことが分からないの?」
1人が私のことを罵倒し、ドンって押した。
そして私はバランスを崩してその場に転んだ。
「どんくさ・・・本当にどんくさいって噂本当ね。こんな子を樹くんが好きになるはずがない・・・」
どんくさい・・・
その言葉を最近聞いたばかり、あのお見合いの時の司さんに。
あの時は樹先輩や剛くんが助けてくれたけど今は誰もいない。
「先輩、やっていいことと悪いことがあります!」
ううん、そこには環や双葉がいてくれた。
ーーー私の腕を掴んで立ち上がらせてくれた。
「ーーー環は黙ってなさい。これは私たちと柊さんの問題よ。」
「・・・分かっていますよ、樹先輩が私を好きになるなんてことはないって。だから付き合えたのは奇跡だって思って、その関係に必死でしがみつこうとしていました。それがそんなにいけないことでしょうか?ただ樹先輩を好きでいるだけなのに、何がそんなにダメなんでしょうか?」
言われたままが悔しくて私は先輩方に対抗した。
樹先輩の気持ちが誰よりも大切だと思うけど、
まずは自分が先輩を好きでいることをこの人たちに阻止されるのだけは納得いかなかった。
それに私自身も先輩を諦めるなんてことはしたくなかった。
「どうしたら先輩を好きでいることを認めてくれるんですか?」
「・・・本気を見せなさいよ。」
「本気ですか?」
「対抗試合、私たちと当たるように先生に伝えておくわ。そこで5分の間に1点でも取ったらあなたが樹くんに本気だと、コーチとは何の関係もないと信じてあげるわよ。」
「それは・・・」
「出来ないとでも言うの?樹くんに対する本気を見せなさいよ、私たちだって本気を見せるわよ。」
「ーーーそんな・・・無茶です。」
運動に自信がない、そんな私が運動部の先輩たちに勝てるわけがない。
「環と双葉も出なさい、勝てるわけがないんだから。お荷物にならないようせいぜい頑張るのね。」
この険悪な騒動で何事だと集まって来た野次馬に見られている私たち、
それを3年の先生が阻止したことで半強制的に決まってしまったも同然だった。

「大丈夫?・・・無理ならやめておこうよ。」
双葉はここ最近、私の足の調子が悪いことを知っている。
見学が増えていることや歩くのがいつもより遅かったりで異変に気が付いていたみたいだ。
「柊さん、大丈夫か?何かトラブルでも・・・」
私と双葉がコソコソ話していると正樹先輩が心配そうにこちらに話しかけてきた。
「ーーーいいえ、大丈夫です。今日は1年、負けませんよ(笑)」
私はそれを伝えるのが精いっぱいで、そのままその場に座り込んだ。
ーーー ズキンズキン ーーー
さっきから実は足がすごく痛む、
先輩に押されて倒れてしまった時に足を打ってしまったのかもしれない。
負傷している左足が膝から足首にかけて痛みが少しずつ増しているのが分かる。
ーーー骨のバランスが事故の後遺症で外れやすくてバランスを保つことが難しい。
少しの衝動や衝撃で外れてしまい激痛を伴うことが多く、
最悪な時は入院を繰り返した。
ここ最近・・・高校に入ってからは中学のころよりも活動が増えた影響もあって足の調子が前に比べて悪いことが増えた。
そのたびに剛くんがマッサージをしてくれていたけど、
今はそれすら頼めていない。
「ーーー環も巻き込んでゴメンね。」
ここ最近、少し気まずい雰囲気の環に声を掛けた。
「いいよ。私はそれよりも花の本心が聞けて良かった。」
「えっ?」
「正直、花はもう樹さんのことどうでも良いのかなって思ってたから。だから諦めないでいるって言ってたの人ごとだけど嬉しかった。だから勝つ、絶対に勝つよ!双葉とバスケ部の名にかけてフォローするから!」
「ーーーありがとう。」
先輩とケンカしてからギクシャクしてた環、
向こうは普通に今まで通りにしてくれていたのに少しの距離を置いた自分を恥じた。
終わったらきちんと謝罪しよう、
そう決めて私たちは先輩たちとの対抗試合に向けて15分の練習に入った。

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私と先輩たちは3試合目となった、今のところ1年生が優勢だ。
本気の試合じゃないしみんな楽しそうにしているけど、次の私たちはそうはいかない。
「・・・柊出るの?」
「頑張るから、須永君見ててよ。」
「・・・でも大丈夫なのか?俺、コーチに止められて・・・」
須永君はバスケ部で私と同じクラス、
きっと剛くんに事情を聴いているのかもしれないーーー。
私を止めようとしているのがすぐに分かった。
「大丈夫、頑張るね。」
私は不安を察されないように笑顔で答えた。
ーーー自分で決めた以上、友達であっても弱音は吐けないと思ったから。

試合はすぐにスタートした。
私は双葉の計らいでなるべく動かないで済むようにゴール近くで待機する形を取った。
「柊!今だ!シュート!」
須永君や正樹先輩からエールをもらってその通りに打つけど、
低身長で力もない私ではゴールにさえ届かない・・・。
これでは結果が見えていると誰もが思っていると思う。
それに3年生の先輩方、さすがの元バスケ部、動きが早い。
でもね、環や双葉はそれに負けていなかったよ。
ーーーただ迷惑をかけていたのは私だけだったよ。
「柊!チャンスボール!今だ!」
何度も須永君は教えてくれていたけど、そのタイミングでは私には難しくて点数に繋がらない。
それに先輩たちに邪魔されうまくゴールすらさせてもらえない。
ーーー ドスン! ーーー
さらにはわざと私を押して、ゴールさせない・・・
違う、動けないようにさせていたんだと思う。
ーーー ズキンズキン ーーー
痛い。
環たちばかりに迷惑かけられないと私も立ち位置だったゴールから離れてボールを追いかける。
そのために全速力で走る、その振動で足に激痛を伴う。
汗が少しずつ冷や汗に変わり、今にも気を失いそうにもなる。
でも諦めたくない、諦められない。
ここで負けたら先輩を諦めることになってしまうから・・・
「柊!ストップ!もう無理だ!やめろ!!」
何度も聞こえる正樹先輩と須永君からのストップコール、
私は首を横に振りそれを聞こえなかったようにする。
その隙を狙って先輩たちは私を倒し、足の痛みをわざと増す。
ーーーこの人たちはわざとやっている。
私の足が弱いことを知っている、
だから環や双葉を狙うのではなく、
私の足を動けなくさせるために押し倒しているのが分かった。
「須永!コーチ呼んで来い!」
もう汗だくで意識が朦朧とする中で、正樹先輩が須永君に言った一言で目が覚めた気がした。
ーーー負けてたまるか、諦めてたまるかと思った。

何度転んでも立ち上がる、
みんなに笑われても可哀そうだと思われても私は泣かない。
立ち上がってゴールを決めるんだ、それまで諦めないんだって。
時間内に1点でも良いから決めるんだって。
ーーー ズキンズキン ーーー
だけど私の足は結構限界で、走るなんてもう無理で歩くのもやっとだった。
「ねぇ柊さんやばくない?もうやめさせてあげなよ・・・あれじゃあんまりだよ。いじめだよ」
そんな同情の声も出始めた。
正樹先輩は私が諦めないと分かってしまったからこそゴールのタイミングをひたすら教えて叫んでくれている。
ーーーそのおかげで少しずつ感覚がつかめて気がするのは気のせいかな。
先生もさすがに止めに入ったけど、それすら私は聞く耳を持たなかった。
だけど足も限界で、床にしゃがんだまま動けなくなった。
「どうする?ここでやめる?そしたら約束は守ってね、同情なんてしないよ?」
先輩たちは私に確認しに来た。
「花、もう諦めよう。こんなことしたって先輩の気持ちはこの人たちに向かないって。」
「ーーー違う、そういう問題じゃない。」
「でも・・・花の足壊れちゃう!」
「絶対にあきらめない。先輩への気持ち・・・嘘じゃないもん。」
私はそう言って立ち上がり、
先輩たちが持ってたボールを奪ってゴールまで全部の力を使って走った。
だけど追いつかれるのは分かっていたからすぐ近くまで走って来た環にパスをした、
あと少しのところで先輩たちのディフェンスに負けて点数にはならなかった。
ーーー ドンっ!! ーーー
環にパスをした瞬間に先輩は私に対してのディフェンスをしたことによりコートの外に押し出される形となった、
それにより一人の先輩が私の上に乗り込む形になり、
私はもう身動きが取れない状態となり足を抑え込んで激痛をひたすら我慢した。
ーーーもう無理だ、もう動かない、そう思った。

「柊!もうやめろ!」
試合の決着はつかない、残り1分で諦めるのかーーー・・・
諦めたくなくてももう足が動かない。
そんな時・・・
体育館に須永君と一緒に剛くんが息を切らして走って来た。
「柊!!ストップ!試合終了だ!」
立ち上がろうと必死な私に剛くんは駆け寄った。
「もういい、よく頑張った・・・」
「・・・終わってない。負けるわけにはいかない。」
私はちょうど近くに来てくれた剛くんの腕を借りて立ち上がった。
「---あんたも教師ならこの状況止めろよ!」
剛くんは私の側から先生の方に殴りかかりそうな勢いで向かった。
焦った先生はストップの笛を吹いたけど、誰もやめようとはしなかった。
立ち上がった私は先輩の持つボールを奪おうと一歩前に出た瞬間に激痛が走り、その場に倒れた。
「柊!!!」
観客席から聞こえる友達の声・・・
「花!もうやめろ、本当に!頑張った・・・お前は頑張った!」
「ーーー今やめたら先輩を諦めないと・・・せっかく好きな人が出来たのに・・・またあんな思いするの嫌だよ、だから諦めたくない!」
「・・・気持ちは分かる。でも・・・これ以上続けたらお前の足が動かなくなるんだよ!頼むから・・・」
剛くんは私を強く抱きしめたーーー。

「1点入れれば良いんだろ?コーチ、こいつ頼みますよ。環、全部俺にパスしろよ。」
「ーーー先輩!」
ーーー何が起こっているか理解出来なかったけど、
突然樹先輩が現れた。
ど、どういうことで何が起こってるの・・・?
その場にいた全員が硬直してる中、
樹先輩が覚めた冷たい口調で先輩たちに言った。
「まさかルール違反とか言わねえよな?自分たちだって柊がこんなになるまで追い詰めたんだからな。ほら、始めるぞ。」
つまり先輩本人が私の代わりにゴールを決めてくれるということだった。
「待って、それじゃあ意味がない・・・」
それを遮ったのは言うまでもない私だ。
「意味もないも、もうお前の足は動かない!それにこんなことしたって俺の気持ちは動かない!いいか!何度でも言う、俺は柊が好きだ!他の誰でもない、柊 花が好きだ!文句あるか!?」
私に対して言ってるのか、3年生の先輩たちに言ってるのか分からないけど嬉しかった。
「・・・もういい!やってらんないわ!」
そして試合も中断になり、先輩たちは授業中にもかかわらず体育館から出て行った。

私も・・・
保健室に行こうと立ち上がったけど足が限界で、
剛くんに支えられながら体育館を後にした。
「お疲れさま!頑張ったよ!」
なぜかみんなが私に拍手してくれているのが聞こえて、涙をこらえるのに必死だった。

「いいか、絶対に一人で帰るなよ・・・」
「分かってる、待ってるから・・・」
剛くんは何度も私の様子を確認しに来た、
授業に出るほどの元気は私にはなくて、
結局剛くんが早上がりする形を取り昼休み前に一緒に自宅に戻らせてもらった。
ーーーもちろん剛くんは私を病院に突き出して、
そのまま学校に戻った。

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