【 君がいる場所 】#14. 疑惑からの不信感*。

君がいる場所

#14.

剛くんは実家から帰って来ても、
相変わらず優しかったーーー・・・。
だけど剛くんの本当の気持ちを知ってしまった以上、
私は甘えるわけにも行かないと、
いろんな決断をしなければならなかった。

まず剛くんと離れてどこに暮らせば良いのか。
おばあちゃんのいる静岡に帰るべきなのか。
それとも学校に相談して寮があるか聞いてみるか。
一人暮らしをするか・・・ーーー。
そのための生計をどう立てていくか。
高校生の私には荷が重すぎるくらいのことを考えなければならなかった。

「・・・柊?」
ここ最近の私はずっとこのことばかり考えているので上の空のことが多い。
「あっ、ごめん。どうかした?」
さっきから何度も呼ばれていたようで、
須永くんが不思議な顔をして私の顔を覗き込んできた。
「先輩が呼んでるーーー・・・」
「あっ、ありがとう。」
須永くんの至近距離に少し驚きながら、
私は先輩が立つ教室の入り口まで駆け寄った。
先輩は私の手を引き、歩き出す。
ーーー一年生の教室に三年生が来ること自体珍しいし、
ましてや樹先輩だったら女子たちが黄色い悲鳴を上げるのは当たり前だった。
女子たちの騒ぎごえをかき消すかのように、
私たちは旧校舎の今は使われていない図書室へ入った。

「ーーーここ、俺の穴場。」
「確かにここなら人がこなそうですよね。でも1人で過ごすには少し怖いです。」
真っ暗で古すぎてミシミシという図書館、
今にもお化けが出そうで私は怖い。
「ーーー女子には怖いのかもな(笑)」
初詣以来、こうして先輩と2人で話す気がする。
「でも教えてくださってありがとうございます。せっかくだから、座ろっかな🎵」
私は先輩の心遣いを傷つけないようにとその場にしゃがみ込んだ。

「ーーーあのさ、悪かったな。」
先輩も私の隣に座り込んで、
そして突然謝罪された。
「何がですか?」
「初詣の時、追い払うようにして。」
「断ろうと思っていたし全然気にしないでください、むしろありがとうございます。」
「なら良いけど、あの時の柊が少し体調悪そうに見えたからさ・・・」
「環に何か言われたんですか?(笑)」
「ーーーあの日から会ってない話を昨日会ったから話していたらあんなこと言われたら私だって冷めるわって言われたわ(笑)」
その話を聞いて少し胸がズキンと痛んだ・・・。
先輩と出会った時から少し感じていたこと、
先輩は私じゃなくて本当は環のことを好きなんじゃないかなって。
ーーー環の話をする先輩はいつも楽しそうで、
仲の良さをすごく感じてしまう。
きっと環の知ってることで私の知らないこともあると思うと胸がすごくすごく痛んだ。
「そんなことはないので・・・笑。ただなんか何を連絡したら良いのかわからなくて、私も連絡しなくてすいませんでした。」
それに比べて私と先輩はまだまだ壁がある。
敬語が抜けないし、
お互いに気を遣いながら話している、
そんな気がした。
だから付き合いたてでも甘い甘い関係の恋人のように毎日連絡取り合うこともなければ、
用事がある時にしか連絡を取らないんだと思う。
ーーーそしてそんなことを思っている、
そのことさえも私は先輩に言えないでいる。

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土曜日、私は久しぶりに先輩と会う約束をした。
ーーーこれも環が間を取り持ってくれた。
恋人なのにこんなに会わないの寂しい!と。
結局環がいなければ私たちは成り立たないのではないかとさえ思ってしまう。

久しぶりに先輩に会うから、
そう思って金曜の放課後に文化祭で仲良くなった琴音ちゃんと一緒に買い物に行った。
洋服を新調しようか、
靴にしようか、アクセサリーにしようか・・・。
楽しみのことに対して悩むのはすごく楽しみ。
「無事に買えて良かったね!これで先輩も喜ぶんじゃない?」
「うん、本当に!琴音ちゃんは風間くんと少し進展したの?」
「ーーーううん、風間は好きな人いるから。でも絶対に振り向かせるから、負けないからね、花!」
「ーーーお互いに頑張ろうね(笑)」
お買い物も終わり2人で美味しいパンケーキ屋に入り、
2人でモンブランパンケーキをシェアした。

このモンブランはお店の人気商品で、
パンケーキを食べるだけに他県から来る人も多いほどに人気のお店だ。
琴音ちゃんの知り合いが経営者で特別に並ばずに入れてもらえたのがラッキーだった。
初めて食べるモンブランパンケーキ、
甘くて生地はメレンゲで出来ていてふんわりととても柔らかい。
最高の一品で、
幸せを噛み締める、ってこういうことなんだと思った。


ひたすら食べることに夢中の私たちーーー。
美味しいーーー!!
と琴音ちゃんに伝えたけど、
彼女は何かに夢中で私の話を聞いていない。
「どうかしたの?」
私も気になって琴音ちゃんの視線の先を見ようとして、
「花は見ない方が良い!」と止められた。
だけどそんなの遅くて私は見てしまった。
ーーー環と樹先輩が楽しそうに2人並んで歩いてるのを。
「きっと何か事情があるんだと思う・・・」
琴音ちゃんは私を必死にフォローしてる。
「部活の用品買いに行くって言ってたよ、近いところにいたんだね。」
ーーー私は動揺がバレないように琴音ちゃんに伝えた。

でも本当は自分でも理解できないほどの嫉妬を感じてた。
今日は部活だったはずーーー・・・。
環と教室でバイバイして、
彼女は部活に行ったもん・・・。
なのになんで今、向かいの通りに2人で並んでるのか分からない。
ーーー理解できないし、理解したくもない自分がいる。
結局、
琴音ちゃんと別れてからも私は先輩と環のことばかりを考えて何も手につかなかった。

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土曜日を迎えた朝ーーー、
私は寝不足のまま顔を洗い前日に買ったワンピースに手を伸ばす。
行きたくないなぁ、会いたくないなぁと思った。
でもそういうわけにはいかないので、
私は先輩との待ち合わせ場所に向かった。

「遅くなってすいません。」
待ち合わせより10分遅れて到着した私は、
先輩が待つカフェに合流した。
「大丈夫だよ、さっき来たところだから。」
私は先輩の向かい側に座らせてもらい、
事前に購入したラテを口にしたーーー。
どうしよう、寝不足で涙が出そう。
それに話すことが全くなくて口を開けない・・・。
「ちょっと付き合ってもらいたいところがあるんだけど良いか?」
今日の予定をザクっとしか決めてなかったから、
先輩が突然口を開いた。
「ーーーはい。」
私は微笑で答えた。

カフェを後にして私は先輩の横に並んで付いていく。
手を繋ぐこともなく、
側から見たらお兄ちゃと妹にしか見えないと思って笑いがこぼれた。
「ーーー柊、なんかあったか?」
「いえ、特には・・・」
無言で先輩の隣につく私に不思議に感じたんだろう。
先輩は何かあったのかと尋ねて来たけど、
本当のことを言えるわけないじゃないと思った。
「後少しで着くから、そしたら休憩しよう。」
「はい・・・ーーー。」
そして歩くこと5分、
私たちは先輩が付き合って欲しいと言っていた場所に着いた。

それは大きな広場で、
その奥にはバスケットコートが見える・・・ーーー。
ーーー奥には須永くんや正樹先輩、井上先輩に環や双葉がいたのが見たえた。
「ーーー付き合って欲しいってここですか?」
「いつも柊に会わない休みはここでみんなで練習がてら遊んでる。いつでも来て・・・」
「・・・わたし、帰りますね。」
昨日の今日で、
休みの日までも環か・・・。
そう思うとやるせ無い気持ちになって、
自分の存在価値の意味がわからなくて、
私は来た道を戻った。

「柊!」
私を追いかけてくる先輩、
彼も彼で戸惑いを隠せないようだった。
「先輩、昨日って何してましたか?」
「なんだよ、突然・・・昨日は部活が早く終わったからメンバーでご飯行ったけど?」
「・・・環と2人ででしょ?」
「は?」
「わたし、見たんです。環と2人で楽しそうに歩いてるの。私は今日久しぶりだからすごく楽しみでワンピースも新調したけど、先輩は私といる時より環といる方が楽しそうでした。」
「そりゃそーだろ。」
「えっ?」
耳を疑って、私は先輩を見た。
「ーーー柊とは付き合ってるんだ。そりゃ気を使うに決まってんだろ。」
「・・・そっか。先輩には環みたいに明るくて主導権握ってくれる人の方がお似合いかもしれませんね。」
私は涙を堪えながらも、
必死に笑顔を作った。
「何言ってるか分かってんのか?」
戸惑っていた先輩の顔も真剣な眼差しになった。
私は私の腕を掴む先輩の手を離した。
「ーーー今日はありがとうございました、失礼します。」
そう言って私はその場を去ったーーー。

何度も先輩から着信を受けたーーー・・・。
でもどうしても取ることが出来なかった。
またあの笑顔を思い出しては、
自分に向けられたものじゃないと知ってしまうから。
休み時間に呼び出されても、
断り続けた・・・。
だから私と先輩が別れたという情報が知れ渡るのはとても早かった。
ーーー別れたわけじゃないんだけどな、
とも思いつつ同じようなもんかと諦めた自分がいた。

きっとこれでまた先輩に告白する人が戻る。
ホッとする自分と、
少しショックを受ける自分、
2人の自分がいた。

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