【 君がいる場所 】#10. スーパーヒーロー*。

君がいる場所

#10. – Goh Side –

日曜の朝の学校のローテーションは決まってる。
10時に学校に来て、
まずは女子バスケのコーチと軽いミーティングから始まる。
そこから月曜からの準備に入り、
樹と正樹と部室で軽いミーティングーーー。
それが終わって13時過ぎから練習が始まる。
女子は隣の女子の部室で、
同じようなローテーションを組み、
1時間遅れて14時からの練習となっている。

「ーーー引退試合も近いから3年は特に強化する必要があると監督が言ってる。樹を中心に頼んだぞ。」
3年生は11月に引退試合を控えている、
それで本当に最後のバスケ。
この2人は推薦で大学が決まってるとは言え気が抜けないし、
進学が決まってない部員もここから受験本番に入る。
「オレも樹さんたちと同じ学年が良かったっす!」
で、いつも早めに来て邪魔をしながらお昼を食べる須永は今日もここにいる。
大事な話には聞いてないフリをしてくれているので助かる。
「あと2年、お前がキャプテンになれるように頑張れよ(笑)」」
「ーーー頑張ります!」
そしてこいつは褒めれば伸びる、
おだてればやるタイプだから最近はよくおだてている。
「で、来週は練習試合が控えている。樹の進学予定の大学との交流戦だ、本気出していけよ。」
「はいっ!」
「以上、オレからは・・・」

「コーチ!コーチいる!?」
ちょうどミーティングが終わりかけた時、
ノックもせずに部室のドアを力強くバンッ!と開ける音がした。
「なんだ、環か・・・焦らせるな・・」
その場にいた全員が環の方を驚いた顔で振り向く。
息を切らしている環は必死に走ってきたんだろう。
「何でそんな息切らしてんだ?(笑)」
須永は環をからかうが、環は強い目力で睨み、
オレの胸を掴んできた。
「コーチ・・・知ってんの?!花が・・・結婚するって本当なの?!学校辞めるって本当なの?!コーチ、全部知ってたの?!」
「はっ?なんの・・・」
なんの話だよ、と言おうと思ったけど環の興奮してる声に遮られた。
「・・・答えてよ!」
女子なのに女子じゃない、そんな言葉遣いの環が目の前にいる。
「どう言うことだ?」
樹が環の言葉に反応した。
「今・・・花から電話があったんです!これからお見合いしてくるねって、頑張るから応援してね、って。分かんないけど家のためって言ってた・・・。」
「家のためってなんだよ・・」
須永も環の話を聞いて衝撃を受けてる。

寝耳に水状態で、オレは花から何も聞かされてなかった。
ただ最近元気がないなぁとは思ってたし、
それは学校のことや樹とのことで悩んでると思ってあえて口にはしなかった。
ーーー家のこと、
だから逆らえない優しい花ならありえる。

花が今朝、抱きついてきたことにも不安があったからなんだろうとオレは朝のことが理解できた。
「あんのバカ・・・!!」
「覚悟を決めてお見合いしなさい、なぜホテルを選んだかわかるでしょ?って言われたって。それってそう言うことなの?って聞かれたんだよ!ねぇ、花に好きな人いるの知ってるでしょ?!幼馴染なら・・・花を知り尽くしてるなら助けてよ!」
「ーーー悪い、さっきの内容は監督も把握してる!監督が来たら練習始めておけ!オレは・・・花を迎えに行ってくる!」
荷物を持ちオレは部室を後にする。
「オレも連れて行ってください!」
「ーーー私も行く!」
「でもお前たちには部活が・・・」
「友達より大切なものはない!」
環は鋭い目つきでオレに言い切った。
ーーーオレは深くため息をついて、樹と環を車に乗せて帝国ホテルまで向かった。

「本当に帝国ホテルで合ってるんだな?」
「うん、ロビーに今はいるって言ってた。」
「・・・何時って言ってた?」
「知らない!でも早く来すぎちゃったから電話してるって言ってた!」
早くてもここから30分はかかる、
すいてることを願いオレは車を走らせた。

そして本当に30分で到着し、
俺たちはロビーを分散して探した。
「花!どこにいる?!」
ホテルだと言うことも関係なく、
俺たちはそれぞれ花の名前を叫び、とにかく探した。
ーーーそして外の庭園のベンチに座ってる彼女を樹が見つけた。

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「花!」
環が花に近づく・・・。
「ーーー帰ろう、花。」
綺麗に着飾れ、まるで絵本の中から人形が出てきたみたいな美しい花。
ほらな、言ったろ?
きちんと着飾ればお姫様に誰だってなれるんだよ。
愛梨に負けてる部分なんて何もないんだよ。
花には花の良さがあるんだよ・・・ーーー。
「出来ないよ!」
オレが手を差し伸ばすと彼女はその手を拒否した。
「・・・愛梨のためか?」
前々から感じていたことをオレは花に聞いた。
「私が断ればお姉ちゃんが身代わりになる!そしたら剛くんとお姉ちゃん、結婚できなくなる・・・!」
「だからって花が愛梨の身代わりになる必要ない!!逆に花の身代わりに愛梨がなる必要もない!」
「・・・お姉ちゃんは自立してるから理解できる。でも、私が生きてこれたのは剛くんのおかげもあるけどあの人たちのおかげもあるんだよ・・・だからむやみに断れない!」
ーーーだめだ、完全に花は負のループに入ってる。

「相手はどんな人なの?」
少し冷静を取り戻した環が花に尋ねた。
「知らないの。同じ高校生、それだけ。あとは多分共学に行ってて、婚約成立したらその人の高校に転校させるって言ってた・・・あとは経験豊富な人だから覚悟しなさいって言ってた。」
「ーーーその意味分かってんのか?」
黙ってた樹が口に出した。
「・・・たぶん。」
「オレは好きな人に自分を安売りして欲しくない。」
「安売りだなんて・・・」
「もう一度いう。オレは柊が好きだ、だからお見合いも結婚も転校もして欲しくない、そばにいてほしいと思ってる。・・・本気だ。」
「ーーー私だって先輩のこと好きだよ!!でもこれは家の問題で・・・できれば先輩と一緒にいたいよ・・・」
それが花の本心なんだろう。

「花!こんなところにいたの?!」
その時、叔母さんの声を聞いて花の顔が真っ青になった。
「ごめんなさい・・・今、行きます・・」
花の叔母さんと一緒に歩いてきたスーツの男性、
確かに高校生みたいに若いけど、
正直気持ち悪い気がした。
「まぁ良いわ。紹介するわ、こちら辻堂 司さん、あなたの婚約者よ。」
辻堂・・・
どこかで聞いたことがある。
「あっ!花道家の辻堂の息子か?!」
ーーー父親は立派な花道家なのに息子はチャラくて何度も警察に補導されていると、
昔愛梨が言ってたのを思い出した。
ーーーきっと、私そいつと結婚するのよ。
年下なのに嫌だわ、なんて愛梨が言ってた。
・・・愛梨が家を捨てた今、花が相手となったんだな。
花もその情報を知ってるはず、
彼女の手が震えているのに気がついた。

「・・・行きますよ。」
オレの存在に気が付きながらもいないように話す人。
昔からこの人はそうだ、
自分の邪魔をする人を許さない。
「待って!花は渡しません!」
花が一歩進もうとすると、環が花を強く抱きしめた。
「・・・環・・・」
「花は私の大事な親友です!知りもしない人と結婚なんて絶対にさせない!」
「なんなの、あなた。離しなさい!」
叔母さんは環を強引に花から離し、
衝撃で花は地面に転び落ちた。
「どんくさ・・・」
それを助けるどころか、辻堂の息子はそう言った。
花もそれを聞こえたんだろう、
必死に泣くのを堪えて食いしばってる。

「何をそんなに維持張ってる?コーチを信じて委ねてみたら良いじゃないか。」
花に手を差し伸べ、立ち上がらせ、自分の背後に守るように彼女を隠したのは樹だ。
「・・・先輩」
「あなたも何なんですか!?部外者なら邪魔しないでちょうだい!」
「ーーー彼女とお付き合いしています。」
まぁ嘘ではないような気もするから良しとしよう、
花はビックリしていたけど。
「花は絶対に渡さない!家のためかなんか知らねーけど、業績悪いのは花に関係ないし、そっちの問題だろ?姪っ子使って勝手なことすんなよ。」

「花!コーチ!」
ああ言えばこう言うーーー、
その繰り返しをしていたその時、
ホテルの中から双葉や須永、正樹がやって来た。
「ーーー練習してろって言ったろ?!」
「普通に無理です!監督に許可ももらいました!」
そう言って須永の視線の先を見ると、
なぜかロビーからこちらを見る監督の姿が。
ーーー他の部員の姿もあった。
「良いんですか?まだ続けますか?まだ続けるなら大事になりますよ?」
「ーーー今にみてなさい!剛、あなたもよ!」
花の叔母ちゃんは血相を抱え、
辻堂の息子を連れてホテルから出て行った。

叔母さんたちが消え、
沈黙が庭園に流れた・・・ーーー。
「大丈夫か・・・?」
オレは震える花に近寄った。
「ごめん、私のせいで・・・」
「それは違うよ、花。私のためにありがとう、だと思うよ?」
環は花にそう言った。
「どういう環境で育ってきたのか分からないけど、これからはさ、ゴメンねじゃなくてありがとうって言おうよ。」
ーーーその言葉に花は涙腺を抑えられず泣いていた、
いや・・・。
オレもその言葉に泣きそうになった。

「ここのローストビーフ美味しいんですよ!皆さんで食べていきません?」
「えっ、良いんですか?」
「私の奢りです。そのために来たんですから。柊さんに感謝ですね、ありがとう。」
花はまたその言葉に泣いていた。
何度も頷きながら泣いていた・・・。
監督がなぜ来たのか分からなかったけど、
花を守るためとかじゃなく、
ローストビーフのためだと聞いて、
監督らしいと思った。
同時に心から感謝したーーー。
「やったー!!監督、太っ腹!行こう行こう!」
須永と双葉、正樹たち他の部員は監督の背中を押して押して、
レストランに向かう。

「わたし、トイレ行ってから行くね。顔がパンダだから・・・」
「いつもの顔と変わらんぞ?(笑)」
「意地悪!(笑)」
いつもの花の笑顔が戻った、
心から安心したオレは念の為に今日のことを愛梨に報告しておこうと発信した。

愛梨は・・・
その話を聞いて珍しく泣いていた。
ーーー電話越しでもそれが分かった、
オレも苦しかった。
「剛、全部押しつけてごめん。近いうちに必ず行くから。」
愛梨はそう言って電話を切った。

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