【 君がいる場所 】#48. 名前で呼ばれて・・・

君がいる場所

#48.

ーーー水曜日はすごく天気が良くて、
外に出るだけでカンカン照りに照らされ今にも目眩を起こしそうなくらいだーー。

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ちょっと動くだけで暑いこの季節、
家の中にいるときは短パンにブラトップで過ごすことが多い。
気が知れているおばあちゃんたちだからこそ、
遠慮しなくても良いから。

「今日は遅いと思うから夕飯いらない~。」
今日は朝から予定が入っていて、
珍しく早起きの私。
長い髪の毛をお団子状にして久しぶりにアップヘアにした。
胸元が目立たないようにいつものようにテープを張り、黄色のワンピースを着て、
白のサマーカーディガンを羽織った。
「気をつけてね。」
おばあちゃんも葵おばちゃんも余計な詮索はしないから助かる部分もある。
無事に帰宅すればそれで良い、といつも言ってる。
きっとそれはお母さんたちへの後悔の念があるのかなと私は思う。

そして私は今日、先輩と会うかどうかはまだ決めていない。
連絡も取っていないし・・・きっと現地で落ち合う的な感じなんだと思う。
来るまで待っていると言われたら行くしかないよねと思ってる自分も否定できないのが少し悔しい。
ーーーううん。
それは建前で心のどこかで先輩に会いたいと思っているからこそ向かおうとしている自分がいるんだよねと思う。

「ーーー先輩。」
私が先輩との待ち合わせ場所に着いたのは18時半前、
店長との話が長引いてしまってこんな時間になってしまった。
私には先輩に会わない選択はなかったーーー。
里奈さんと会ったことを内緒にされていても、
もし先輩が今でも彼女を好きでいても・・・
私は先輩が好きだから、
会いたいって思うから。
「来てくれたんだな・・・」
「来るまで待っているって言われたら来ない選択は出来ません・・・」
素直じゃない私は少し強がった。
「髪の毛上げていると雰囲気変わるのな(笑)」
「あっ・・・今日は友達と会ってたので。ちょっとイメージ変えてみたんです。」
「そっか。ーーー車があっちに止めてあるから行こうか。」
興味あるのかないのかよく分からない言葉を残して先輩と一緒に駐車場まで歩いた。
ほんとすぐに車は止めてあって、
私は遠慮しながらも助手席に座らせてもらった。

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目的地は高台の公園だったらしくて、
私も同じ場所じゃないけど小さい頃はよく家族で来ていたのを思い出した。
ーーーズキッーーー
ほら、また頭痛がする。
必ず私が家族との思い出を思い出すと・・・
まるでなくなった記憶を思い出すのを拒否するかのように頭痛が起きる。
「少し歩くけど大丈夫か?」
公園の近くに車を止めて、私と先輩は何段も続く階段を上り始める。
歩幅は合わせてくれてるけど、それ以上の距離はさすがの紳士らしく縮まらなかった。
「---着いた!!」
「大丈夫か??」
「そんな心配しなくても大丈夫です(笑)・・・運動したって感じがします(笑)」
樹先輩は私を見てふっと笑った。

「はぁぁぁ、綺麗!東京が一望できますね♪」
「ーーーそ。昔よく家族で来たんだよ(笑)今日はあっちで花火大会があるだろ、ここは穴場だから連れてきたかった(笑)」
「ありがとうございます。ここじゃないけど、私も昔家族でこういう公園に・・・」
ーーーズキンーーー
また・・・。
「大丈夫か?」
眉間に皺が寄ったかな、先輩は私を心配そうに覗いた。
「大丈夫です。昔、私も家族で来たことがあるって言いたかったんですけどね(笑)でもそれよりも綺麗だなぁ、嫌なことも忘れられちゃう!」
柵に腕を乗せて私は空を眺めながら先輩と話した。
ーーー先輩と一緒にいると不安で、横にいるといつも里奈さんのことばかり考えていた。
何も考えないで先輩とこう話せるのは自分にとっては久しぶりで新鮮な気持ちだった。
「わたし・・・バイト首になっちゃいました(笑)」
浮かれていたのかな、私は先輩に自分のことを話し出していた。
「えっ・・・」
「蒼太さんからバイト先のお客さんのこと聞いていますか?」
「・・・いや、何も。何かあったのか?」
「ーーー黙っててくれていたんですね。バイト先でちょっとお客さんに好意を持たれちゃって待ち伏せされたりしてて、その時に蒼太さんに助けていただいたんですけど。それが・・・店長の耳にも入ってしまって・・・」
「それで柊が何でクビになるんだ?」
「向こうは大企業の役職ある方だったようですし、私はバイトだから・・・ってことじゃないですかね(笑)」
「だからって・・・」
先輩は納得してないし不服に思うことがたくさんあるようだったけど私はちょうど良いと思った。
「周りの友達もみんな働いてて、大学卒業したのにバイトってなんか嫌だなって最近思っていたからちょうど良かったんですよね。」
「じゃあ仕事を探すのか?」
「そうですね、バイトじゃなくてきちんと働きたいなって今は思っています。」
「柊がそれで良いなら俺からはなにも言うことないけど。」
「大丈夫ですよ、私図太いんで(笑)」
先輩は苦笑いして、そしてまた景色を眺めた。

私はーーー・・・
昔から景色を見るのが大好きだった。
それは両親が亡くなるずっと前から。
バンクーバーに住んでいた時も近くに大きな公園があって、
いつもお父さんと一緒に夕方に散歩に来てた。
週末になればお母さんがお弁当を作って家族で公園でピクニックして過ごしたりもした。
今先輩と見ているこの景色は、
なんとなく昔見た景色と似ていて昔を思い出さずにはいられない。
ーーーズキンーーー
そう思い出そうとするたびに頭痛が起きる。

「・・・大丈夫か?」
「すいません、大丈夫です。」
「柊の大丈夫は信用ならないから休もうか。」
「・・・昔を思い出そうとすると頭痛がする、それだけです。今も・・・昔、家族と来たなって何か思い出しそうだったんですけど頭痛がして。」
「無理して思い出そうとしなくても・・・」
「それは分かってます。でも私の知ってる情報じゃ私は自分を責めてしまうから、本当のことを知りたい。大切な何かをきっと私は忘れているはずなんです。」
先輩は両親が亡くなったことは知ってるけど、
事故とか詳しいことは知らない。
私もあえて話してこなかったし聞かれてもないから。
「ーーー手伝えることがあったらなんでも言ってくれ。相談にも乗るし、して欲しいこともできる限りするよ。」
「ありがとうございます。」
私は笑顔でお礼を伝えた。

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7時半からの花火は少なかったけどとても綺麗だった。
「ーーーこの間は悪かった。どんな形にしろ感情的になったり、申し訳なかったな。」
花火が終わっても動かない私たち。
きっと先輩は花火は口実で、このことを謝罪したかったから私を呼び出したんじゃないかなと思った。
「私が喧嘩売ったんですよ?(笑)気にしないでください。」
「オレは・・・柊のこと好きだ。なにを信じられなくてもそれだけは信じて欲しい。」
「ありがとうございます。お腹空きませんか?何か食べに行きますか?」
ーーー先輩が真剣に向き合ってくれてるのに、
自分の気持ちがハッキリしてなくてはぐらかすわたし。
「ーーー花。」
「えっ・・・なんで今名前で・・・」
名前を呼ばれた瞬間、
わたしは我慢していたものがたくさん目からこぼれ落ちた。
あぁ、こんなにも先輩に名前で呼ばれたかったんだって自分でも驚いた。
「何度も花って呼びたかったよーーー。」
わたしは先輩に抱きついたーーー。
涙を見られたくなくて嬉しくて。
「ーーー・・・好きです。今でも大好きなんです。」
「うんーーー、知ってるよ。」
そんなわたしを先輩は撫でたーーー。
とにかく優しく撫でてくれた。

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