【 君がいる場所 】#46.優しさに漬け込んで*

君がいる場所

#46.

次の週末、私は本当に樹先輩と会わなかった。

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「昨日、樹と約束してたのに・・・」
蒼太さんは時々ランチを食べに来ては色んな話をしてくれる。
私と樹先輩がケンカしているのを知らないから、樹先輩の話を出すことが多くて少しだけ辛いこともある。
だけど蒼太さんを通して樹先輩が今凄く忙しいことを知った。
約束をしていても急に練習が入ってキャンセルになったり、
後輩の面倒を見ていることで予定が組めなかったり・・・。
寝るだけに家に帰っているって蒼太さんが言ってた。
「花ちゃんは最近、樹に会ってる?」
「いや・・・忙しそうで私も会っていないんです。」
当たり障りなく私は蒼太さんに返事をしたーーー。
敢えて自分から会っていないくせに。

基本的に樹先輩は私が連絡をしないとよほどのことがない限りは連絡してこない。
水族館の出来事も彼の中では異例のことで連絡を寄越してきたんだと思う。
だからーーー、あの日からの平日は一度も連絡を取らなかった。
土曜の朝に着信を受けたけど、
夢の中にいた私はそのままその着信をなかったことにした。
会いたい気持ちがないわけじゃない。
だけど会ったらまた里奈さんのことを責めてしまうし、
心から楽しむことが出来ないことが分かっているから私は先輩に会わない選択をした。
蒼太さんは不思議に思うわけでもなく、
ただ納得した様子で仕事に戻って私も安心した。

この日の私は珍しくディナータイムまでバイトに残った。
ランチタイムで本当は終わりだったんだけど、
ディナーの子が欠勤になってしまって店長に頼まれたから。
初めてのディナータイムだったけどランチでは比べ物にならないほど忙しい。
ランチタイムが混雑するのは一定時間のみ、
だけどディナータイムは行列だしずっと店内が満席状態だった。

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ーーーそしてそんな日に限って例の客がいた。
「えっ、夜もいるの初めてだよね!?運命感じる(笑)」
そういうこの人のノリが正直軽すぎて苦手。
「いつもご利用感謝しています。」
私は営業スマイルを送った。
彼は普段は1人だったり多くても3人でランチに来るけど、
今日は4人でディナーに来客した。
ーーーよっぽどここの味が好きなんだろうな。
「彼女ね、俺のお気に入りの店員さんなの。口説いているんだけどなかなか折れてくれないんだよ(笑)」
同僚なのか知らないけど一緒に来ている人に事細かく説明していて不愉快だった。
私は逃げるようにそのテーブルを去り、
なるべく他のテーブルを接客にするように徹した。
満席状態の店内は21時過ぎまで続き、
私がバイトから解放されたのは22時前だった。

「遅くまで引き留めてごめんね。気を付けて帰って。」
「いえ、ディナーも楽しかったです。お疲れさまでした。」
店長と軽く挨拶をして私は更衣室で着替えるーーー。
携帯をチェックしておばあちゃんにバイトが終わったことを伝える。
それ以外は双葉と須永君とのグループラインが来ているのみだった。
少しだけ先輩からのメールを期待している自分がいる、
バカみたいだと思った。
会わなくて良い、そう言ったのは自分なのに。
他の人が来る前にさっと着替えを済ませて更衣室を出るーーー。
駅に向かうエスカレーターを下って、
子供服屋さんの前を通って駅があるーーー。
「待ってたよーーー・・・」
いつもは人気の少ないその場所に、
なぜかあの人がいて・・・。
「えっ、ここで何されているんですか?!」
「花ちゃんが終わるの見えたからここで待ってれば会えると思って抜けてきた、けなげだろ(笑)」
けなげというより気色悪いと思うけど・・・。
「・・・何かご用ですか?連絡先のことでしたら何度もお断りしてると・・・」
「ここはバイト先じゃないよ?もう教えてくれても良くない?」
悪い人じゃないのも分かるし、名刺をもらった時にもしっかり仕事をしている人だってことも分かった。
ただ好意を寄せてくれているだけなんだけど、その好意が迷惑でしかならない。
「・・・ごめんなさい、教えることは出来ないです。すいません・・」
逃げ場がないと感じたワタシはハッキリとそう伝えた。
彼の前を通り過ぎる私の腕を強く握られた。
ーーーそれはあの日の樹先輩の手よりも強く、強引に。
「離してください・・・」
「連絡先くらい教えたって損ねーじゃん・・・」
今まで私に話しかけるこの人は意味深な笑顔が多かったけど、
この時は凄い真面目で怖い顔をしていた・・・
何度聞いても連絡先を教えないことに限界が達したんだと思う。

「ーーーそれくらいにしたら?」
離してと何度伝えても離してくれず諦めようと連絡先を教えようと、
携帯を取り出そうとしたその時に私に救いの手が伸びた。
「えっ・・・」
そこには蒼太さんが立ってた。
ーーー助かった、その思いで私は泣き崩れた。
「・・・もうお前の店に行かねーからな!」
私に好意を寄せてくれた男性はそれだけ吐いて、どこかへと消えた。

「・・・花ちゃん、大丈夫か?」
「す、すいません・・・。」
「ビックリしたよ、仕事終わって帰ろうとしたら揉めてるって思って見たら花ちゃんなんだもん(笑)」
私が落ち着くのを待ってくれた蒼太さん、
今は一緒に駅まで向かっているーーー・・・。
「結構前からあんな感じに迫られていたの?」
「最初は冗談だと思ってたんですけどね、男の人って分からないです(笑)」
ーーー駅までの数分間だったけど、
私と蒼太さんはバイトのことだったり樹先輩のことを話した。

「花ちゃん、どっち?俺、こっちだけど・・・ーーー」
ホームが反対方向だと分かり、私は少しだけ残念に思った。
もう少しだけ誰かと話していたかったな、って思ったから。
それが樹先輩だったらすごく嬉しかったけど、
叶わないから正直誰でも良かった。
「・・・もう少しだけ一緒にいてもらえませんか?」
私はありきたりの勇気を絞って蒼太さんを誘った。
「良いよ、明日休みだし気が済むまで一緒にいてあげるよ!樹も今日も遅いんだろ?寂しさ、俺で紛らして(笑)」
結局私と蒼太さんは、
私の家の近くの居酒屋で気が済むまで飲み明かした。

ーーー私はあるお願いをするため、
そのために蒼太さんを利用した。

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