【 君がいる場所 】#44. 自分の貪欲な気持ち*

君がいる場所

#44.

私と樹先輩の交際はゆっくりと順調に過ぎていき、
季節は蝉の鳴き声が鳴り響く夏に変わろうとしていた。

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先輩は相変わらず忙しい毎日を送っていて、
バスケに加えて後輩の指導、
先輩や上司とのお付き合いなどにすごく忙しそう。
私も少しずつリハビリを兼ねてバイト探しを始めた。
ー 自分の好きなことを仕事にした方が続く ー
以前、先輩に助言してもらった言葉の通り私は自分が好きな語学を活かせる道を選ぼうとしている。
英会話学校の受付、
ホテルや旅行会社も検討したーーー。
だけどホテルや旅行会社は激務だと聞いていて体力的な問題から不安しかなくて断念した。
最終的に私が採用されたのはホテルに隣接されているレストランのホールスタッフ、
昔のカフェでのバイトが良かったのか経験者としてみなされてすぐに採用してもらうことが出来た。
だからと言って全く同じではないからメニューを始め、
まだまだいろんなことを覚えていかなきゃならないことがたくさんある。
それでもホテルの隣だけあって外国人も多いし、
大好きな接客だし、
頑張りたい、そう強く思った。

「えっ・・・はなちゃん?」
バイトは平日は毎日入らせてもらっている。
まだおばあちゃんの家にお世話になってるからそこまで働く必要はないけど、そろそろ一人暮らしを検討していて資金貯めをしたいと思ったから。
「蒼太さん?!お久しぶりです、お元気でしたか?」
「元気元気!ここでバイトしてんの?!」
ある日、私が接客を担当したテーブルに蒼太さんが居合わせた。
「まだ始めたばかりなんですけどね。」
「おれ、ここの35階で働いてんだよ(笑)」
「えぇ、じゃあよく来るんですか?」
「来る来る!」
注文を取りながら世間話をする、
サボってるのを悟られないように。
「蒼太の知り合い??」
「ああ、樹の彼女だよ(笑)」
一緒に来ていた同僚の方が話しかけてきて、
蒼太さんが答える。
「樹とは面識あるから知ってるんだよ。」
蒼太さんは私に説明するように話してくれた。
お会計まではまだ任されていないから私は担当できなかったけど、
蒼太さんたちがお会計しているのを私は会釈で送り出した。
まさかーーー、
私のバイト先のビルで蒼太さんが働いているなんて思いもしなかったから驚きと嬉しさがあった。

「ーーー蒼太からビックリして連絡来てたよ。」
夜、私は樹先輩に電話してそのことを伝えるとすでに話は耳に入ってた。
「そうなんですね、ビックリしました!でも少し心強かったです。」
「ーーー何か困ったことがあったら蒼太に助けてもらえるな(笑)」
「いやぁ、流石にないと思いますよ笑」
「俺も安心したよーーー・・・」
私は少し複雑だったけど、
先輩が安心してるなら良いやって思った。

次の日もその次の日もほとんど毎日バイトで、
忙しい方が仕事内容を覚えるというのは本当のことでランチタイムとディナータイムの忙しい時間帯に敢えて入れてもらって仕事を効率よく覚えさせてもらった。
同じ職場で働く子はほとんどの子が学生で、
女性率が多くてみんな優しい人たちばかりだった。
特に私をずっと指導してくれていたマコちゃんは20歳という2つも年下なのに凄くしっかりしていて、
店長たちからの信頼もすごく厚い子だった。
だけど話すと普通の恋する大学生で、
今は同じ大学にいる男の子に恋をしているんだって。
私と樹先輩の話も時々してはお互いの恋話で盛り上がってる。
ーーー私なんて進展がのんびりすぎるから、
マコちゃんの話を聞いて驚くことが多いけど、
マイペースにと逆に励まされていつも終わってる。

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だけどーーー・・・
私もそろそろ樹先輩と次の段階に進んでも良いんじゃないかなって思ったりはしている。
色々トラブルはあってももうすぐ付き合って半年が過ぎようとしているのにいまだにキスだけなのは双葉や須永くんにも疑問を持たれているし、
自分でも疑問を持つことが多い。
だけどーーー、
初めての私はそれを伝えたところで引かれてしまうんじゃないかという気持ちが強くて本人には言えない。
ましてや私は胸に二つ傷をつけてしまったから、
先輩はそれで私を抱かないのではないかと思ってる。
ーーーきっと先輩の中でまだ先に進みたいという気持ちがないんだと思う、
だから先輩の気持ちを待とうと思ってる。
けど、周りの話を聞いていると自分だけが取り残されている、
そんな気分になることも多いのは歪めない事実。

その夜、私は先輩の帰りを待ったーーー。
先輩が住むマンションの910の部屋の前で帰ってくるのを待った。
「ーーー柊?どした・・・?」
私が珍しく待ってるもんだから何かあったのかと焦った先輩。
「いや、なんとなく会いたくなっちゃって来ちゃった。」
「とにかく入って。」
鍵を開け、私を招き入れてくれた先輩の背後から私は抱きついた。

靴も脱がずに抱きつく私に驚きを隠せない先輩。
「なんかあったのか?」
私の手をほどき、向き合った先輩ーーー。
違うよ・・・、ただ触れたいと思ったの。
向き合った状態で私はまた先輩に抱きついた。
ーーー、その時ふんわりと香水の匂いがした。
優しい香り、強くない大人の香り・・・。
社会人にもなれば付き合いで女性と絡むことはあると思うーーー。
「誰かと一緒だったんですか?」
「・・・いや、先輩たちとご飯行っただけだけど?」
「そっか・・・」
私のやる気ない返事を聞いて、
先輩は私が抱きつく手を解いた。
「柊、何かあったのか?だからここに来たのか?」
「ーーー友達が付き合って3ヶ月で彼氏と初体験したそうです。大学の友達にも私たちは遅いって言われて・・・私も次のステップに進んでも良いと思って・・・」
私からの発言に驚いて目を丸くしていた先輩、
フッと私を見て笑った。
「人それぞれのペースはあると思う、オレと柊はまだその時じゃないって思ってる。それよりももっとたくさん出かけてお互いを知っていく方が今は大切だと思ってる。友達と比較してしまう気持ちは分からなくもないけど、俺たちのペースで良いんじゃないか?」
「・・・ですよね。」
無理やり説得された気もするけど、
私はそれを納得するしかなかった。
これ以上先輩にせがんで引かれて嫌われる方がもっと嫌だったから。

それから私の口からその件について口に出すことも、
先輩の行動からそういったことになることもなかった。
ただ普通に手を繋いで、
時々はキスをする、そんなシンプルな毎日を過ごした。

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