#36.
気持ちの良いふかふかのベットで、
家族で過ごした時期の大切な楽しかった夢を見るーーー。
幸せだった夢は一瞬で、
最後に鮮明に頭に焼き付いてきたのは・・・
炎に燃える車で父と母が苦しむ姿だったーーー。
・・・その一瞬で目を覚ます。
夢であることにホッとした自分、
少しずつここが自分の家ではないことに理解をするーーー。
あっ、そっか。
先輩の家に泊まったんだと。
・
黒い天井に小さな星のかけらが流れているような素敵な壁、
まるで夜空を見ているような気分になって、
ずっとこうしていられる。
隣に先輩の姿はなくて、
少しの頭痛を抱え、重い腰をあげて私はリビングに移動する。
「少し走ってくる」
リビングにあった置き手紙と準備されていた私の朝食を見て、
凄く申し訳ない気持ちとホッとした気持ちの両方をかけ持った。
ーーー久しぶりに事故の夢を見たからなのか、頭痛がする。
いつもその先の大事な部分なはずの夢が見れない、
多分私はその先の記憶が消えてしまっているんだと思っている。
誰に聞いても教えてもらえない、確信の真実の何かがあるはずなのに・・・。
顔を洗って先輩が帰宅する前に身支度をする。
日本の大学に編入してから少しお化粧を学んだ。
ーーーアメリカとは違い、
みんなお化粧をして身なりを整えて授業を受けていることに最初は衝撃を受けた。
だって私のアメリカでの大学は講義が早いこともあったけどパジャマで来ている子もいたくらいだったから。
周りに合わせることも大事だと思うし、
だから私はお化粧を雑誌やコスメショップで少し学んだ。
童顔の私に厚化粧は似合わないことも分かっているからこそ、
今の自然体のお化粧に定着した。
「・・・おいしい」
先輩が作ってくれていた卵サンドを口に頬張る。
甘すぎずしょっぱくもなくてちょうど良い味・・・。
似ているって思った、お母さんがよく作ってくれていた味に。
どうして先輩の家にいるときに限ってお母さんのことを思い出すんだろうって苦笑いがこぼれた。
ーーー ガチャ ーーー
食器洗いをしていると先輩が戻った。
お帰りと出迎えるべき?
このまま食器洗いを続けていても良いの?
「起きてたか。」
そうこうしている間に先輩に話しかけられた。
「朝ご飯ありがとうございました、凄く美味しかったです!」
「自分のを作るついでだから(笑)」
ついででも何でも凄く美味しかった、
そう伝えた。
先輩がシャワーを浴びている間に私はどこに行くか調べていた。
映画に行こうと話はしていたけど、
それは会う口実であって特別に何かの映画を見たいという話はしていなかった。
ーーーどうしようかな、と調べながら悩んでいると先輩が戻って来た。
「見たい映画決まったか?」
「うーーーん、今、これと言ってやっているのが少ないんです・・・」
先輩に確認しても先輩も特別に見たいと思うのはないと言う。
「じゃあ・・・今日はのんびり過ごしませんか?泊った意味はなくなってしまいますけど・・・」
ちょっと頭痛もあったし、
先輩も明日は朝から練習なのを知っているからゆっくり過ごしたいと提案した。
「ーーー良いよ。どこか行きたかったら言ってくれたらそれで良いよ。」
結局、その日はのんびりと・・・
まったりと夕方まで先輩の部屋で過ごし、
暗くなる前に私は祖母の家に戻った。
・
「おばあちゃん」
「ーーーどうだったか、お泊りは?」
「うん、楽しかったよ。ありがとう。あのね、お母さんとお父さんの夢を見たんだ。」
「ーーーそうか。」
「ーーーあの事故の夢で、やっぱりその先を思い出せないの。私が何の記憶を失っているのか教えて欲しい。」
おばあちゃんの眉がピクッと動いたのを私は見過ごさなかった。
おばあちゃんは何かを隠している、絶対に何か大事なことを隠している。
それは何のため?自分のため?
ーーー誰かのため?
お父さん?お母さん・・・?
お兄ちゃん?
ーーーそれとも・・・わたしのため?
「知らない方が良い現実もあるんだよ。」
「もし私が思い出したらどうするの?」
「その時は・・・事実を受け入れるしかないんだろうな。」
それからも話そうとしたけど、この話題は禁止だと言って聞いてもらえずに終わった。
・
私もなるべく気にしないように過ごし、
今は須永君や環たちと一緒に卒業旅行についての場所を決めている。
ーーー最終的に決まったのは軽井沢、
寒いかもしれないけど冬らしい景色を味わいたいという須永君の一存で決めた。
スキー・・・
足が治ったとはいっても完治しているわけじゃないから不安はあるけど、
挑戦したいたいう気持ちの方が強くて、
私も軽井沢という提案に賛成した。
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