#19.
夏休みが終わり、
また学校生活が始まった。
私たちの学校は二期に分かれているから、
夏休み明けでも新学期とは呼ばないーーー。
だから・・・少しだけ不思議な感覚で友達に再会する。
・
先輩の自宅にお邪魔させてもらってから先輩にも会っていない。
ーーーもちろん連絡は取り合っているけど、
わたしも夏休みということもありバイトを入れまくったし先輩も部活がほとんど毎日で会うことはしなかった。
そういう意味でも同じ学校に通う、
そのことがとても大切だと痛感した。
「元気だったー?夏休み何してたの?」
クラスに入ると友達同士の掛け合いの言葉が聞こえる。
前までは居心地の悪い感じがしたこのクラス、
今はそれが恋しかったと思う自分がいたなんて不思議だ。
私も環と双葉と夏休みのことを話す、
でもこのメンバーでは結構会っていたから久しぶり感がない。
それよりも目線の先にいた須永くんの周りに集まる人だかり、
彼の人気ぶりが伺えた。
決して人気者になりたいとは思わないけど、
私の人生においてあんなに人に囲まれたことはないからどんなもんなんだろうという関心はある。
そんな視線に気がついたのか、彼はニコッと微笑んだ。
私は微笑を返した。
・
昼休み、残り半年のリハビリの予定を先生に伝えに行った。
ーーーここ最近調子が良いから、
通院が2ヶ月に一度に変わったことを。
予約はその時にならないと取れないから、
都度休みになるけど今までのように毎月ではなくなるから私も少しホッとした。
職員室は2年生の階にあるから、
それとなくチラチラと先輩の姿を探したけどそんな簡単に見つからなかった。
屋上にも顔を出したし、
放課後も図書館狙って2年の教室をチラッとしたけど先輩の姿を見つけることなくその日の1日が終わった。
・
会いたい時は会えないもんなんだなぁ、と思った。
ーーーそして私は手にしていた大きな紙袋を持って電車に乗った。
電車に乗ること3駅、乗り換えて2駅で先輩のご自宅がある。
とは言っても一度しか行ったことない家だから覚えてない。
「はなちゃん、こっち!」
「待たせましたか?すいません!」
そんな時に助け舟を出してくれたのはナツさん。
お姉さんに借りた洋服を返したいことを伝えたら家まで案内してくれるとかって出てくれた。
歩くこと10分弱、無事に見覚えのある先輩の家に着いた。
レンガ調で洋風の作りのお家、
お庭も道路側に綺麗にされていて、
お母さんの趣味なのかお花も綺麗に並べられている素敵なお庭だ。
わたしは夏さんにお礼を伝えて、
意を決してインターホンを鳴らす。
「突然押しかけてすいません。柊 花です。」
インターホン越しに伝えるとお母さんはすぐに玄関を開け、
中に招き入れてくれた。
・
「先日お借りしたお洋服を返したくて本日お邪魔させてもらいました。ご連絡しようと思ったのですが連絡手段がなくて突然きてすいません。」
「気にしないで、わざわざきてもらってゴメンなさいね。良かったらお茶でも飲んで行って。」
そう言って差し出してくれた麦茶とお菓子。
ーーーわたしは迷ったけど口にさせてもらうことにした。
「樹は花さんと一緒にいる時はどんな子なのかしら?」
「えっ?」
「学校のことも部活のことも何も話さない子だから、みんなにどう思われているのかしらって親として思って・・・」
「先輩は凄い人気です!バスケも出来るし、イケメンでわたしの知る限りファンクラブがあると耳にしました。実際に先輩と交流させてもらって、キレると凄い怖いけど根はすごい優しい先輩です。いつも人のことを気にかけている、そんな人だと思います。」
「ーーーありがとう。これからも息子のことよろしくお願いしますね。」
「ーーー良いんですか?」
お母さんは何が?とでも言うようにキョトンとしてた。
「私には両親がいません、それで先輩とお付き合いすること不愉快に感じたりしないのかなって先日思って・・・」
「するわけないじゃない(笑)育った環境は違うかもしれないけど、花さんはきっと百合や斎藤君から愛されて育ったと見てわかるわよ。本当にお母さんに似て綺麗な顔立ちをしているものね。」
「ーーーありがとうございます。」
「また今度ご飯食べにきてね、うちの女の子は男みたいだから(笑)」
「ありがとうございます。」
ほんの束の間の時間だったけど、
わたしの不安が取れた気がした。
花火大会のお母さんの曇った顔が気になって、
今日来るのも少し躊躇っていたけど・・・
樹先輩との交際を反対されず、
むしろ応援してくれてわたしの心は救われた。
・
自宅に帰る途中ーーー、
わたしは無性に先輩に会いたくなった。
先輩を産んだお母さんと話し、
そしたら先輩に会いたくなった。
「ーーー柊、ごめん、ミーティング長引いて・・・」
電車の中から会いたいとメールして、
今待ち合わせの場所に先輩が来てくれた。
ーーー息を切らして走ってきてくれたのが分かる。
「いえ、こちらこそ呼び出してすいません。」
「・・・どうかしたか?」
わたしは向き合う先輩に向かって、笑顔で抱きついた。
えっ、と驚く先輩だったけど、すぐにわたしを抱きしめてくれた。
「ただ会いたくて・・・会いたかったから呼び出しちゃいました。」
わたしは先輩を見て伝えた、
そしたら優しい唇がわたしの唇に触れた。
あぁ、キスしているんだ、すごく幸せだった。
本当に幸せで、
この時間がずっと続けば良いのに、と願った。
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