【 君がいる場所 】#18. 運命の悪戯*

君がいる場所

#18.

ーーーどうしよう、
このまま先輩の言葉に甘えて良いものか。
先輩の電話中、
私はひたすら悩んだ。

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「ーーー5分くらいで姉貴が傘持ってくる。」
「えっ?!ーーー本当に・・・帰ります。」
付き合って長いならまだしも・・・
わたしたちはまだ2ヶ月、デートだって数えられるほど。
そんな私が雨が理由でも先輩の家にお邪魔するのはおこがましいにも程があると思う。
「こんなに濡れて、どうやって帰るつもりだ?」
「それはーーーー・・・」
答えに困っているとーーー、
樹!と大きな声が私たちがいる改札に響いた。
ーーー向こうから2本の傘を持ち笑顔で向かってくる長身のロングヘアの綺麗な人。
キリッとした一重の瞳、高い鼻や堀の深さなどが樹先輩によく似ている。
「ーーー姉貴、持って来てもらって悪い。」
「ほんとよ、なんで私が持って行かなきゃならないのよ!」
姉弟の2人の会話に圧倒されて入れない私ーーー、
弟としての樹先輩を見るのも新鮮で、
放心状態だった。
「ーーー初めまして、弟がいつもお世話になってます。」
お姉さんは私に気がつきニコッと挨拶をしてくれた。
「あっ、初めまして!樹先輩の後輩の柊 花です!」
「ここにいても寒くなるし、行こうか。」
「あ、あの!私帰ります・・・やっぱり先輩の家にお邪魔するのはなんか違う気が・・・」
「まだ言ってんのか?!風邪ひいて明日のバイトいけなくなるぞ?」
「とりあえず浴衣と髪の毛がすごい濡れてるし、弟の言うようにして?うちは何のお構いもできないけど、来てもらうのは大歓迎の家だから、うるさいかもしれないけど。ね?」
「ーーーはい。」
優しいお姉さんに断りきれなくて、
結局私はお邪魔することになった。

お邪魔して何よりも驚いたのは、
とても元気で明るいお母さんに出迎えてもらえたことだった。
私が名乗るよりも先にお風呂に誘導してくれ、
お姉さんの服を貸してくれた。
お風呂から上がる頃には浴衣が洗濯機に回されていて行動の速さにも驚いた。

「ーーーあのっ、ありがとうございました。」
「やっぱり大きかったわね。まぁ良いわ。樹、早く入ってきなさい。」
先輩のことはそっちのけでお母さんは裾が長いお姉さんのスウェットを折り曲げてくれた。
「よしっ、これで良いわ。お茶入れるわね、座ってて。」
ーーーどうして良いのか分からずに、
私は誰もいないソファに腰掛けさせてもらった。
そしてお茶が出された頃にちょうど樹先輩がリビングに戻ってきた。

扉の音で振り返る、
やばい・・・
上下スウェットだけどあまりにもセクシーすぎて胸が高鳴り赤面するのを抑えて私は元の方に頭を戻した。
ーーーそんな私の気も知らないで先輩は私の隣に座る、
緊張して胸が張り裂けそう、そう思った瞬間だった。
そして私は先輩から視線を逸らした。
何となく先輩も私から視線を逸らした、そんな気がした。

時計を見ると8時半過ぎ、
あとどのくらいで私の浴衣は戻って来るのだろう。
ーーー トン ーーー
「よかったら食べて。夜ご飯食べてないって聞いたから残り物でごめんね。」
「えっ・・・すいません。ありがとうございます。」
そこに出された焼き魚と卵焼きのお味噌汁と白いご飯。
人に作ってもらうご飯が久しぶりすぎて、
涙が出るほど嬉しかった。
「どうかしら?」
「・・・美味しい、すごく美味しいです!」
先輩のお母さんの優しい顔がなぜか自分の母と重なり涙がこぼれた。
「えっ・・・」
「すいません!何だろ?分かんないけど・・・」
涙を拭って驚く先輩のお母さんに笑顔で返した。

「ーーー付き合って長いの?」
突然横から降ってきたお姉さんの言葉。
「いや、付き合ったばかりだよ。」
先輩が返すーーー。
「あっ!名乗り遅れてすいません!樹先輩とお付き合いさせてもらっています1年の柊 花です!」
家族の優しさに甘えてすっかり名乗るのを忘れていた私は焦って名乗った。
「一年生なんだね、どっちから告ったの?」
お姉さんは恋愛話が好きなんだろう、興味津々。
一方・・・お母さんは突然顔を曇らせ何かを考え込んでいた。
「えっと・・・私から告白しました。」
「弟のどこ好きになったの?こいつつまんなくない?(笑)」
「姉貴、もういいだろ(笑)」
2人の様子を見ててもすごく仲良いのが伝わってくる。
兄弟って良いなーーー・・・
ううん、時を共に過ごしてきた兄弟って良いなって思った。

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「ーーー母さん、何で深刻な顔してんの?」
一緒に座ってたソファから移動して台所で何かを考え込むお母さんに気づいた樹先輩。
私もそっとお母さんに近寄った。
「柊 花・・・お母さんは柊 百合・・・?」
私は驚きを隠せなかったーーー。
「母をご存知なんですかーーー・・・?」
「ちょっと待っててねーーー」
お母さんはバタバタとどこかに行ってはすぐ戻ってきた。

何かのアルバムを持ってきたお母さん、
私たちはもう一度ソファに座った。
ペラペラめくるとお姉さんや樹さんの小さい頃の思い出が詰まった写真がたくさん並んでた。
「ーーーこの子が百合なんだけど・・・」
最後の一枚にあった先輩のお母さんに見せてもらった写真。
そこに映ってるのは同じ制服を着た男女数名、と小さな赤ちゃんだった。
「えっ、これ母さん?若いね(笑)」
お姉さんと樹さんはそこに突っ込んでたけど、
私はすぐに自分の母の姿を見つけた。
ーーー父の姿もそこにあった。
「・・・母と父がいます。」
「えっ、お父さんも?」
「ーーーはい。これが父です。」

樹先輩のお母さんは私の話を聞いてふふッと思い出すように笑った。
「やっぱり斎藤くんが相手だったのね。」
「えっ?」
「百合が妊娠したのはすぐに気付いたけど、斎藤くんと付き合ってるなんて誰も知らなくて百合も相手を誰だとか言わなかったの。最後の最後まで言わなかったからみんな推測で仲良かった斎藤くんの話をしていたのよ。ーーー斎藤くんは学年でも凄い人気でね、百合は自分達の関係を周りに言えなかったのね。」
先輩のお母さんたちの話を聞いてまるで今の先輩と自分みたいだと思った。
「この赤ちゃんは・・・兄ですね。」
「ーーーそう。」
「7年後に私が生まれたんです。」
「ーーーみんな元気なのかしら?海外に引っ越したとは人伝に聞いたのだけどそれ以来・・・」
元気です、と嘘を伝えるべきか。
本当のことを言うべきかーーー・・・。
「ーーー父と母は私が4歳の時にカナダに引っ越して・・・8年前に他界したんです。」
私は後者を選んだ。
懐かしそうに嬉しそうに話す樹先輩のお母さんの目が変わった瞬間でもあった。
「ーーー母さん、もう良いんじゃないか。」
樹先輩自身も父母が亡くなってることは初めて耳にすることなのに私を守ろうとしてくれた。
「・・・そうね。嫌なこと思い出させてごめなさいね。えっと、洗濯物出来たかしら?見てくるわね。」
お母さんは逃げるように洗濯の方に行った、
その後をお姉さんが追いかけて行った。

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わたしはーーー、呆然としてた。
父と母の知り合いがこんな身近にいたことが嬉しい。
その反面で恋をした樹先輩のお母さんだったことで簡単に他界してることを知られてしまった。
きっとお母さんからしたら良い気分じゃないと思う。
「ーーー大丈夫か?」
そんな私を先輩は心配そうに見てた。
「大丈夫です!でもそろそろ帰らないと明日のバイトに起きられなくなっちゃうので・・・」
私は先輩に笑顔を作り、身支度だけ始めた。
こんなことになるとは思ってなかったから私服も持ってなくて、
お姉さんが戻ってきたのと同時に後日返しに来たいことを伝えた。
「ーーーその格好で電車乗るの?(笑)」
「すぐなんで大丈夫です!」
「ーーー車で、送ってあげるよ。」
「それなら俺も行く。」
洗濯の終わった浴衣を受け取り、乾燥は自宅でやることを伝えた。
ーーー1人で帰れると言い張ったけど、
暗い夜道だからと結局お姉さんと先輩に自宅まで送ってもらうことになった。

「本当に助かりました。ありがとうございました。」
「いいえ、またいつでも来てね。」
ーーー私は苦笑いをこぼすことしかできなかった。

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