#17.
ーーー太陽がさんさんと照らす8月中旬、
私たちは先輩の部活が終わってから映画に来た。
・
あの日をきっかけに何気ないことでも毎日メールするようにはなった。
ただ先輩の負担にはなりたくなかったからそこに関しては一方通行に送る形でも強要はしたくなかった。
だから先輩からメールが来ない日は電話をもらったり、
なかなか良いバランスが取れていると思う。
今日見る映画は最近公開されたばかりの恋愛映画。
ーーー映画を決めてくれたのは先輩だったけど、
恋愛映画はやっぱり心に染みると思った。
でも私は映画より先輩と横に並んで見る、
それの方がとても緊張した。
2人で一つのポップコーンに触れる手、
映画中に繋がれる手、
その手をなぞるような先輩の仕草ーーー。
とにかく自分自身がドキドキしていた記憶しかない。
映画を終えた私たちは軽くパンケーキを食べ、
それから買い物に出かけたーーー。
というのも前に先輩が普段何して過ごすかということで案内してもらったのと対照的に、
今度は私が普段友達とどのようにして過ごすかを知りたいと先輩に言われたからだ。
高校の友達の環と双葉ちゃんは運動部に入ってて普段遊ぶことは滅多に出来ないけど、
たまに部活がお休みの時に遊ぶ時はひたすら買い物をしてすごすか、やっぱりカラオケになってしまう。
「ーーー俺たちもカラオケばっか行ってる。だんだん飽きるんだよな(笑)」
「そうーーー、で、歌わずに雑談になるんです(笑)」
歩きながら話すのもすごく楽しいと感じる、
それは幸せな時だから・・・。
手を繋いでこうして横に並ぶ、
そして先輩が楽しそうに笑ってくれている。
もうーー、それだけでお腹いっぱいだよと思う。
意外と時間もあっという間で、
先輩と過ごす時間はすぐに過ぎ去っていくーーー。
次の週に行った遊園地も、
その次の週に行った水族館も、
本当に先輩との時間はあっという間に過ぎて行った。
先輩は夏休みの間、
部活が早く終わる週1回の大切な日を私のために費やしてくれた。
私も唯一会えるその日はバイトを入れないようにして、
それ以外の日は徹底的にバイトに力を入れた。
「ーーー明日、7時に俺の最寄り駅に迎えに行くから。」
「うん、待ってます。」
でもこの週は特別に2回も会えるーーー。
この週に会えた金曜日の部活の後に加えて、
明日は約束していた花火大会ーーー。
フルで部活をするようだけど夜には間に合うから、と待ち合わせもしてもらえた。
ーーーただ心配なのは天気だ、
今のところ曇りになってるけど雨が降らないようにだけお願いしたいところ。
自宅に戻って新調した浴衣を引き出しから出す。
ーーー実は明日は自分で着付けができないから、
夕方に美容室に行く予約もしてある。
浴衣の着付けとついでに髪の毛もセットしてもらうの。
・
花火大会当日、
この日のためにバイトを休んで代わってもらった私。
朝からソワソワしてて、
なぜだか意味もなく部屋の掃除なんか始めていた。
ーーーそれもそのはずなの。
異性と行く花火大会、それが初めてだったから。
髪の毛をセットしてもらってる間、すごく不思議だった。
クセのあるこのウェーブの髪の毛のセットがわからなくて、
いつもおろしていて結んでもポニーテールか2つ結び。
その長い髪の毛が今はハーフアップにされていて、
さらに斜めにも編み込みがされていて自分が自分じゃないみたい。
いつものぼったりの私の髪型よりもすごくスッキリ見えて、
私はこっちの方が自分が好きだと思えた。
それに合わせて紅色の着物、そこにはおつき様の中でくつろぐうさぎの絵、
またうさぎ同士の絵だったり・・・
お花が多いデザインの浴衣の中でウサギが際立って見えて一目惚れした浴衣を担当の人に着せてもらった。
「まぁ、よくお似合い!」
担当の人が言ってたけど、自惚れても良いなら私もすごく今日は似合ってると思った。
「ーーーお待たせしました!」
「えっ?」
美容院がすごく押してしまって先輩との待ち合わせに5分遅れたわたし・・・、
先輩に声かけると、すごく驚いた顔をされた。
「えっ?」
「ーーー柊?髪の毛上げてるし浴衣だから全然わからなかった。」
苦笑いをこぼす先輩、
私から視線を逸らした。
少しゆったりしたTシャツにジーパンとサンダルの先輩の姿、
何を着ても似合うなぁと思った。
そして何気に先輩の私服姿を見るのは初めてだということに気がついた。
ーーーいつもいつも制服姿だから、
私服だと余計にデート感が出てすごく緊張した。
「あ・・・悪い。」
すぐに歩き出した先輩の横に小走りで歩く、
そこにそっと私は手を絡めた。
「ーーーいえ。」
私が絡めた手をギュッと握り返してくれた、
その温度から先輩の気持ちが伝わってきて凄く嬉しかった。
「ナツさんたちとはどこで待ち合わせをしてるんですか?」
「あーーー・・・断った。」
「えっ?でも花火大会・・・」
「俺が柊と2人で見たかったから、って言ったら納得する?」
大通りのど真ん中で向かい合う私、
先輩は少し照れたように私に言った。
「あっ・・・ーーー嬉しいです。」
私は微笑んで人混みの中をまた歩き出した。
「凄い人だから、手、離すなよ。」
「ーーーはい!」
私たちがたどり着いた場所は凄い大変な階段を登った先だった。
先輩はこの階段を私に昇らせるか本当に悩んだらしい、
でもその先にあるキレイな花火をどうしても見せたかったからと言ってくれた。
その言葉がとても嬉しかった。
「凄いですね!ここ花火じゃなくても景色だけでもすごい綺麗です!」
「ーーー小さい頃によく姉貴と遊びに来てて、意外と知られてなくて穴場なんだ。」
「うわぁ、見て!今、ミッキーでした?あれ?キティー?」
空一面に広がる大きな花火を目の前にして私はとても興奮した。
最後のフィナーレまで私はずっと顔を上に向けて見入っていたと思う。
「すごい!すごい!今の見ました!?花火が落ちてくるみたい・・・」
「ーーー連れてきた甲斐がある(笑)」
樹先輩は私の様子を見てはずっと笑いを堪えている。
「笑わないでくださいよ、本当に感動してるんだから!」
「ーーー新鮮だなって(笑)柊といると俺まで楽しくなるわ・・ーーー」
「もうーー・・・」
私は先輩の方を振り向く、
そしたら先輩の左手が私の頬に触れた。
えっ、と思ったけど・・・
その瞬間に先輩の唇が私の唇に重なった。
ーーー ドーン ーーー
最後の花火の大きな音が耳に響く中、
私たちは唇を重ねた。
・
花火が終わり、ただ夜景を2人で眺める。
街灯が綺麗で、
花火がなくても全然何時間でもいられる。
「えっ・・・うそ・・・」
2人で夜景を眺めていたその時、突然の雨が
「ーーー本降りになる前に帰るか。」
先輩の言う通り私たちは公園を出て、
とりあえず駅のほうに向かった。
ーーーその間に雨が強くなり、
駅に着いた時には私たちはびしょ濡れだった。
「・・・この雨じゃ、駅からも帰れないな・・・」
先輩は私の心配をしている、
送ってもらったところで今度は先輩が帰れなくなる。
ーーー予報は曇りだったから大丈夫だと思っていたけど、
傘を持って来れば良かったと後悔した。
「・・・うちに来るか?」
大雨にあたり帰宅する人が多い中、
駅の改札で雨宿りをする私たち。
こんな混雑では自宅に戻るにも電車に乗れる自信がない。
ーーーでも先輩からの突然の提案にも驚きを隠せなかった。
「いやいや、さすがにそれは・・・」
「ーーー歩いて5分だから。こんな雨だから帰るに帰れないし、びしょ濡れで風邪引くぞ。」
「いや・・・・でも・・・」
流石にそれは抵抗がある、
いくら大好きな先輩の家でも、
ご家族がいる自宅にお邪魔するのは抵抗があるーーー。
それを伝えようとしたのに、
先輩は既に自宅に今の状況を連絡していた。
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