#15.
先輩と連絡を取らなくなって一週間、
さほど変化のない暮らしをしている。
あえていうなら・・・
もうすぐ夏休みに入ることくらいかな。
ちょうど先輩たちの練習試合が終わる日が最後の登校日になる。
・
そして今日は先日点検に来た消防の方がまた入ると朝のHRで先生が言っていた。
先日分かったのは食堂の警報装置が故障していることによるサイレンだった。
それに伴い全装置を交換することになり、
作業員に加えて念のために数名の消防の方も入るということだった。
「やったー!またオレンジの人たちが見れる!」
クラスの子たちは喜んでいたけど、
私はあまり興味がなかったーーー・・・。
だって彼らは仕事をしに学校に来てくれているんだから、と思ってた。
学校で過ごしていても一日中業者の方が作業しているので忙しくて、
私たち生徒もなんだかいつもと違う様子に戸惑っていたと思う。
もちろん中にはオレンジ群を追いかけて、
目をハートにしているミーハーな子たちもいたんだけどね。
・
「ーーーなんか女子ってすげーな(笑)」
私は須永くんと教室からちょうど奥に見えるみんなの姿を眺める。
「すごいね・・・笑」
「りぃさ見てみろよ、この前樹先輩に振られたのにもう目がハートになってる(笑)」
「切り替えが速い方が引きずらなくて良いんじゃないかな笑」
私たちは興味ないもの同士、語る。
「でもオレンジの2人も迷惑そうだよな、帰らなきゃならないんじゃないのかね(笑)」
「ーーー確かに。」
その時、ふとオレンジの1人が私と須永くんの方を見上げた・・・。
ずっとこっちを見てて・・・
あまりよく見えなくて、でも視線を逸らせなかった。
「ーーーえっ・・・」
でも消防の1人がこっちに向かって来た時、はっきりと顔がわかった。
ーーーそれはずっと会いたかった人。
幼少期をずっと一緒に過ごして、
日本にいるのを知りながらあえて会わなかった。
ずーーと恋焦がれていた人だった。
「花!」
「凛・・・にぃ・・・?なん・・・で?」
教室とグランドの距離で話す私たちに須永くんも少し驚いてる。
でも誰よりもこの状況に驚いているのは私だと思う。
「ーーーお前に会いに来た。」
大きな瞳が私を視線から逸らさせない。
「ウソ・・・」
わたしは教室から出て彼のところに走ろうとする。
「花、来るな!俺が・・・行く!」
そんなこと言われても待つなんて出来なくて、
私は教室を飛び出した。
「柊!待てよ!ーーー良いの?本当にその人に会いに行って良いの?」
「なんで・・・?」
「ーーー・・・樹先輩を裏切ることになるんじゃねーの?」
私を追いかけた須永くんに引き止められた。
「ならないよ!だって彼は・・・」
消防の正体を明かそうと思ったのに・・・。
「ーーーどうかしたのか?」
廊下で私と須永くんが揉めてるからちょうど向こうから来た正樹先輩と樹先輩に呼び止められた。
「いえ・・・」
「ーーー何でもないっす。」
須永くんは言わなかった。
「須永くん、腕離してもらえる?わたし・・・行かないと。」
須永くんの腕を離して向おうとしたら、
すでに向こうから走って来てるのが見えた。
「花!」
そしてその瞬間に私は抱きしめられた、
めちゃめちゃ強く。
「あっ、あの・・・」
テンパって私はバンバン叩いた。
「わ、悪い・・・。久しぶりだな、元気だったか?足は問題ないか、リハビリ順調か!?」
「ーーー問題ないよ。何もない。」
余計なことを話すと長くなりそうだし、その場をどうにか納めたかった私は少しのウソを加えて問題ないことを伝えた。
「良かった!はぁぁぁーーー・・・会いたかった・・」
この人は昔から愛情表現が豊かだけど、
前以上に増した気がするーーー。
せっかく離したのにまた私を抱きしめた・・・。
「あの・・・仕事中じゃないの?」
えっ、あの子と知り合い?、樹先輩にひどく振られた子だよね、切り替えはやっ!、いいなぁ、抱きしめてもらえるなんて、ちょっと今の瞬間素敵だったよねなどいろんな声が聞こえて来て私は無理やり離した。
「やべっ、署長と来てんだ!またな!みなさんもお騒がせしましたー!」
最上級の笑顔を振りまいて彼は私の学校を去った。
「ど、どういうこと?!柊さん、オレンジくんと知り合いなの?!」
「樹がダメならあの人って・・・軽い女!」
私はなぜか他の階からも集まって来た先輩から同級生からと問い詰められたけど、
樹先輩の様子が気になって彼女たちを無視して樹先輩の方をチラッと見た。
でも先輩は全く気にしているようには見えず、むしろいつもと同じように正樹先輩とつるんでた。
先輩たちは教室とは反対にある食堂の方に向かってて私は責め立てる人たちを抜いて必死で追いかけた。
「樹先輩・・・!」
「ーーー・・・何か用?」
私が声をかけたことで須永くんと正樹先輩は気を利かせて先に向かってくれた。
「消防の人のこと・・・」
「俺には関係ないよ。」
「でも・・・」
「ーーー悪いけど、バスケ部のメンツを待たせてんだ。用がないならもう良いか?」
なんと冷めた目だろうーーー、
何とも冷たい声だろうーーー。
私は先輩の腕に手を触れようとした自分の手を下げた。
「ーーー今日、部活お休みですよね?会えませんか?」
「試合が近いから外部ミーティングあるんだ、悪いな。」
それだけ言って先輩は食堂に行ってしまった。
そりゃ怒るよねーーー・・・。
好きな相手じゃなくても一応付き合ってるわけで、
そんな彼女が自分の知らない男と仲良い雰囲気出したら。
私が先輩だったら発狂してると思うし。
弁解しようとしてもその余地を与えてももらえない、
それほど怒ってるってとだと思う。
ーーー自業自得なのに、
私は涙が止まらなかった。
・
午後の2時間は保健室で過ごした。
泣きすぎて頭が痛かったのもあるけど、
この泣き腫らした顔で授業なんて受けたら先生たちに心配かけると思ったから。
環と双葉が私のカバンを保健室に持って来てくれた。
そして私はそのまま帰る支度をして下駄箱に向かった。
「あっ・・・」
下駄箱には樹先輩がいて私は顔を見られたくなくてスッと横を通り抜けた。
先輩は気にしてる様子もなく、
バスケ部の数名と楽しそうに話してる。
珍しく先輩たちにしてはのんびりだから、
私は彼らを抜かしたーーー。
「柊!また明日な!」
須永くんだけが声かけてくれて、私は笑顔でバイバイと答えた。
・
ーーードスン!ーーー
そして正門を出るところで、私は2人グループの女子たちにぶつかった。
ーーー違う、後ろから強く押された。
その衝撃によって、私は思いっきり前に転んで顎を打った。
ーーー急すぎて手が出せなかった。
「邪魔だよ、ビッチ」
転んだ私を助けることもなく笑って大声で言ってる・・・
周りの人も見ているだけ、
人ってこんなに冷たいもんなんだなって思った。
「ーーー大丈夫か?」
涙を流しながら私は必死で落としたものを拾う、
立ち上がるのに立て直すのには時間がかかるからそれまでに自分を落ち着かせようとしてた。
でもーーー・・・そんな私に手を差し伸べてくれたのは誰でもない樹先輩だった。
「な・・・なん・・で・・・?」
その手を受け取り、私は立ち上がった・・・。
「ありがとう・・・ございます。」
先輩にお礼を伝えた・・・ら、彼女たちが突然私の前に立った。
「一年のくせに図々しいのよ、樹くんに告白なんて・・・立場をわきまえろって。」
彼女たちは私に言った。
樹先輩のことが好きな人たちなんだろう、気持ちは分からなくもないけど人に害を与えることはしちゃだめだと思う。
「お前らこそ立場わきまえたら?」
そこに割り込んだのは正樹先輩だった、
こういうの参加しないタイプだと思ってたから意外だった。
「え?」
「樹がすげー迷惑しているけど?(笑)」
「私たちは樹くんのことを思って・・・」
「思って何?」
「樹くんのこと好きなくせに色んな男に良い顔して、気に入らないのよーーー。どうせ樹くんのことも遊びで・・・」
先輩たちは私をすごい剣幕で睨みつけた。
「ち・・・違います!!!」
自分の樹先輩に対する気持ちを否定されているような言い方をされてそこは反論した。
「は?」
「柊さんも、良いから・・・」
正樹先輩も私を止めたけど、言われたままでは気分悪かった。
「私は・・・樹先輩のこと今でも大好きです!これを恋じゃないというなら何だというんですか?」
「だったら色んな所に良い顔してんじゃないわよ!」
2人のうちの1人が私を押して、私はまたよろめいた。
「あぶなっ!」
そしてまた樹先輩に支えられる形になった。
「ーーーいい加減にしてくれ。だから嫌なんだ、学校の女子と関わると何一つ良いことない。二度と俺に話しかけるな・・・」
私を含めた、その場にいた女子全員に投げられた言葉だったと思う。
鋭い目つきと冷酷な口調・・・
本気だったと思う。
それが怖かったのか周りにいた女子も、2人組の女子の先輩も退散した。
「ーーー顔、ケガしているけど大丈夫・・・」
野次馬が消え、放心状態の私に樹先輩が話しかけた。
「大丈夫です。えっと・・・私も帰りますね。」
先輩の顔が見れなくて、
何を話したら良いのかも分からなくて、
私も避けるようにその場を去った。
・
次の週に行われたバスケ部の練習試合、
須永君に誘われて応援に行く予定だったけど・・・
行けなかった。
先輩を見るのが辛かった。
[ 大事な試合が終わった。ーーー近々会えたりする?]
試合の夜の日に受け取った先輩からのメールに返信できずに、
学校は夏休みに入った。
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