#14.
次の週も、その次の週も樹さんはクラスの人とバスケをすると言って木曜日は会えなかった。
ーーー何となく気が付いていた、
避けられている、そんな気がした。
・
だからーーー、私は樹先輩の練習している姿を見たくて散歩がてら見に行ったんだ。
あえて聞かなかったけど、何となくそこに女性がいる気がしたから。
ーーー先輩を好きになりたての頃、
一度だけ散歩に来たことがある。
その時にいた女性が今日もまたいた。
そして・・・その中に樹先輩もいた。
そこにいたことに対して安堵してる自分、
それと同じくらいに不安な気持ちも抱えた。
だって前と同じように楽しそうにバスケをしてて、
ゴールしたら男女構わず抱き合ってる。
喜びの証なんだろうけどね、
まだ手さえ繋いだことない私としてはすごく悲しかった。
ーーーほんの少しでも好きでいて欲しかった、なと思った瞬間だった。
私はネット越しから見て、すぐに帰路に向かった。
そこにいる理由も見つからないし、
私は学校では先輩にこっぴどく振られたことになってるから。
「ーーーもしもし。」
「今、コートに来てた?見えた気がしたんだけど。」
帰路の途中で私の携帯が鳴った、
本当にいつぶりだろうと記憶にないほど前の着信からの久しぶりすぎる先輩からの電話だった。
「いえ、それは私じゃないと思いますよ。先輩モテますね、ふふふ(笑)」
電話越しに明るく伝えたつもりなんだけど、
突然先輩が黙って私は不思議に思って先輩の反応を待った。
その時ーー、ガシッと誰かに手をつかまれた。
「なんで嘘をつく?」
それは樹先輩でーーー・・・。
「何でここに・・・?」
「嘘をつく必要がどこにある?」
「だって・・・!先輩、私のこと無視してるから・・・」
「無視?俺が?君を?いつ?」
「先週も今日も会えないって言われたらそう思うじゃないですか!えっ、違うんですか?」
「ーーー考えもしなかったが。ただ先約を優先した、それだけのことだよ。」
「でも・・・同級生の女性の方は先輩を好きかもしれないじゃないですか!先輩もまんざらではないですよね、あんな笑顔でハグしていたら凹みますって。」
「ーーー彼女は友達だ。」
樹先輩はきっとこういう話は嫌いだと思う。
ーーーあからさまに嫌そうな顔をして、
私に誤解させないように話してくれてる。
避けてなかったのは良かったけど、
やっぱり女性の嫉妬ほど醜いものはないよね、と思った。
「・・・ですよね(笑)とりあえず私は帰るので手を離してもらっても良いですか?」
反対側の自分の手で、私は先輩の腕を解いた。
「日曜なら・・・部活終わりの6時頃になると思うけど時間作れる。」
私は先輩に苦笑いをこぼした。
「いえ、大丈夫です。お疲れ様でした。」
そう伝えたけど、私が歩き出した時に先輩の独り言がはっきりと耳に聞こえたよ。
「何なんだよ・・・意味分かんねえ。」
という言葉がね。
・
日曜日、
部活終わりの樹さんから連絡があった。
「ーーー今、駅に向かってるけど会えそうか?」
でもあまりにもバイトが忙しくて、
昨日も残業して疲れ果ててた私は断った。
「ゴメンなさい、ちょっと疲れてるので・・・」
「じゃあ帰るからな?」
「ーーー気をつけて。」
とにかく眠くて眠くて、
そのまま朝まで眠り続けた。
・
「珍しいね、遅刻なんて。」
週が明けた月曜日、
私は寝坊して遅刻した。
いつも出る時間に起きて本当に焦った。
「ーーー寝坊した。土曜のバイトが忙しすぎて・・・」
「ボサボサだけど(笑)」
「セットする時間もなかったの!」
双葉と環と朝のこの時間が最近は癒やされることも増えた。
「にしてもその髪型、本当に羨ましい。」
「くせっ毛だよ?梅雨なんて最悪だよ。」
みんなが羨ましいという私の髪の毛は梅雨のこの時期はいつも以上に癖が出てウェーブかかった髪型になる。
それを束ねることもしないから、ライオンみたいな髪型になってる。
ーーーだからこの時期の毎朝のセットは大変なのに今朝はそれすら出来なかった。
「柊さん、担任の先生が呼んでるよ。」
ーーー遅刻したからプリントをとりにくるようにという罰だ。
いつものことだから慣れてる。
多分この担任も私のことを嫌いな1人だと思ってる。
・
「あっ・・・」
教室を出て階段を登り職員室に向かうーーー。
そこで出会した樹先輩ーーー。
「おす。」
「ーーーお疲れ様です。」
今日は髪型がひどいからあまり会いたくなかった。
「髪型ひどいけど大丈夫?(笑)」
「あまり見ないでください、寝坊して時間なかったんで・・・」
「ーーー女は大変だな(笑)」
ほんの少しの距離だけど沈黙が流れる。
「木曜だけど、会えそうだけど会うか?」
ーーー今週も友達と予定入れるのかなと思ってバイト入れちゃったよ。
「ーーーその日、バイトになっちゃったんです。」
「バイト何時まで?」
「えっと・・・8時ですけど遅いですし、この前みたいになっちゃうから・・・」
私が先輩の答えに戸惑いながらも、
嘘はつかなかった。
「ーーーそうだな。」
そして、私たちは職員室について別々の先生のところに行った。
担任は私にクラス全員分のプリントを渡したけど、
ちょうどそこにいた知らないクラスメイトに半分頼んで助かった。
・
木曜日、
私がバイトに向かう途中、
先輩が公園のほうに向かうのが見えた。
いつも見かけるメンバーで。
私に気が付いた先輩、
私は会釈をしてバイトに向かった。
バイトの最中もずーと先輩とのことを考えてた。
これで良いのかなって。
バイト仲間の千花さんと弘樹さんカップルを見てても、
ナツさんや陽介さんを見ていても私たちカップルとは程遠い。
毎日会えなくても心は繋がってると分かる、とナツさんは言ってたけど私はそれを感じない。
きっとこのまま連絡とかしないで会わなかったら疎遠になる、そう思ってる。
告白を早まってしまったのか。
先輩からの付き合ってみようか、という提案を受け入れるべきではなかったのか。
ーーー分からないけど先輩の負担になってる気がした。
・
私はバイトの休憩中、先輩にメールした。
会って話がしたい、と。
そしてバイト終わりに会うことになった。
思い立ったらすぐ行動、
その性格だけは自分でもすごいと思う。
自分の素直な気持ちを伝えようと思ってるから、
外で会いたくなくて先輩に家まで来てもらった。
「狭くてすいません・・・」
「いや・・・本当に大丈夫なのか?親御さんとか・・・」
変なところ真面目な先輩がいる。
「あっ、色々あって私ここに一人暮らしなんで。」
「えっ!?高校生が一人暮らし?」
「そうです(笑)だからバイトしないと生活できないんです笑」
私はお茶を出しながら、椅子に座る先輩の向かい側に座った。
「ーーー結論だけ先に言います。先輩と私の関係を一度白紙に戻しませんか?」
時間も遅かったし私は先に結論だけ伝えた。
「ーーーそんなことだとは思ったよ。」
「読まれてましたか(笑)」
「理由は?友達優先したからか?」
「違います!」
「じゃあ何?」
「ーーー先輩のこと好きですけど、負担になりたくないなって思ったんです。明らかに今、負担じゃないですか。私がいなかったらバスケに集中できるのに私がいるから余計な気を遣わせたり、悩みを増やしたり・・・」
「それなら今の白紙に戻すってのは却下だな。」
「えぇぇ?」
「君のこと負担に思ってもないし、むしろ一緒に過ごせて楽しいと思ってるよ。俺の大事な幼馴染とも仲良くしてくれて感謝してるし。」
「いやじゃないんですか?」
「何が?」
本当にわからないと言った感じでキョトンとしてる。
「自分の友達と仲良くされて気分悪くないんですか?」
「ーーー別に?嬉しいけど?」
ーーーそう、なんだ・・・。
嫌なのかなと思ったけど、そうじゃないことは安心した。
「でも、やっぱり私は自分を好きだと思ってくれる人と付き合いたいです!本当は連絡だってたくさん取りたいしたくさん会いたいです!樹先輩からは全く愛を感じないし、私からの一歩方通行の気持ちはちょっと辛いです。」
「ーーー保留にさせてもらっても良いか?」
私は必死で伝え俯いてしまった顔を上げた。
「えっ?」
保留ーーー?
「・・・2週間後に大事な練習試合を控えてるのが1番の理由。卒業生が何人かいて来ると聞いてるから余計に力入ってるんだ。2番の理由は・・・自分の君に対する行いを振り返りたい。」
「はぁ・・・」
「だから一度保留にさせてもらうーーー。」
「・・・分かりました。」
いや、分かってないけど。
よく分からないけど、
保留になったことは分かったよ。
すんなり受け入れると思ってたから意外だったけど、
私も2週間は先輩のことを考えずに、
自分のことを優先しようと決めた。
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