#09.
ーーーサイレンの鳴り響く音は学内の緊急装置が鳴っただけだった。
そしてそのまま全校生徒に対して、
校庭に集まるように指示が流れたーーー。
・
「ーーー柊さん?」
尋常じゃないくらいに怯えた私の様子を見た樹先輩は困った様子で私に近づいた。
「大・・・大丈夫ですから。」
自分でも初めてのことで何が起こっているのか分からなくて、どうしたら良いのか分からなかった。
「ーーーどう考えても・・」
「いいから!大丈夫ですから・・・!!」
私は震える自分を必死で抑えながらも樹先輩の背中を強く押して屋上から押し出した。
「おい!!!」
ーーードンドンとドアを叩く音が何度も響いたけど、
私は両耳を抑え塞ぐようにしゃがみ込んだ。
ーーーただこの警告音が私の耳奥に響き頭の中に残って、
10年前のあの事故を鮮明に思い出してしまったーーー。
そして私はそのまま気を失った。
・
真っ白い壁、
太陽が照らす眩しい光ーーー。
ガチャガチャと音を立てながらデスクに座る白衣の女性。
ここは家じゃない・・・
「起きた・・・?」
「あの・・・わたし・・・」
「気を失っていたみたいよ。2年の市川くんが抱き抱えてきてくれたわよ。後でお礼伝えておきなさいね。」
「樹先輩がーーー?」
保健室の先生は淡々と樹先輩が私を連れてきた時の様子を話してくれた。
「痛いところとかない?」
「大丈夫です。」
「ーーー先ほど担任の先生もカバン持って来てくれたから、今日は帰りなさい。」
「ーーー分かりました。ご迷惑おかけしました。」
私はそのまま学校を去り、
自宅に戻っても横になってた。
・
夜、私は樹先輩に電話をしたーーー。
メールと迷ったけどお礼はきちんと口頭で伝えた方が良いと思って。
「今日はご迷惑おかけしてすいませんでした。」
「もう大丈夫なのか?」
「はい・・・ーーー。ありがとうございました。」
「ーーーいや、大事にしろよ。」
その先の会話は繋がらずにすぐに切ったけど、
これで良かったのかなと思ってる。
結局、学校内で鳴った警報は原因不明とのことだった。
バーンと鳴った大きな音もどこからの音なのかわからないと全校HRで校長が話していた。
ーーーただ近々、消防隊員の方を呼んで学校全体を見てもらうので安心して欲しいとも伝えられた。
・
そして、教室に戻ると話題は私と樹先輩の話で持ちきりだった。
「樹先輩付き合ってるの?!」
双葉ちゃんのこの一言から始まり、
クラスの女の子から集中攻撃を受けた。
どうやら昨日の私を抱き抱えて保健室に向かう樹先輩の姿が結構な人に見られていたようで、
そこから付き合っているという噂になってしまったようだった。
「ーーー付き合ってないよ。」
正直に答えた、本当のことだもん。
「ほんとに!?」
「ほんとだよ・・・」
「でも樹先輩が・・・あの樹先輩が女子と絡んでるってすごい話題だよ!」
ーーー双葉ちゃんの情報ではやっぱり樹先輩は1年2年3年の学年を問わずに女子生徒からの人気が爆発的だと聞いた。
誰に告白されても首を縦に振らないことでも有名で淡白な性格でも有名なんだって。
でも時折見せる笑顔、そのギャップに心奪われる女子が多いことも教えてくれた。
だから私と絡んでると知った女子生徒たちの中で、
樹先輩の相手と認識されてしまった私は変な意味で有名になってしまったんだと。
「でも、屋上で2人で何してたの?」
ーーーそこに素早く突っ込んできた名前も知らないバレー部の男の子。
「それは・・・」
「言えないことでもしてた?笑」
ふざけて私をからかってるのはわかる。
「森田!そういう言い方やめろよ。」
須永くんが入ってくれたけど、時すでに遅いと思った。
「ーーー樹先輩を好きだったのは事実。昨日、告白して振られた。それだけのこと・・・」
振られたばかりで気持ちの整理もついてないのに蒸し返されて泣きそうになった私は席を立った。
教室を出て、図書館に向かうーーー。
「柊、待って!」
でも私の後を追いかけてきた須永くんが私の手を掴んだ。
「あいつ、悪気はないと思うんだ・・・」
「大丈夫。でも振られたのは事実だし、まだ自分でも心の整理がついてなくて・・・」
私はその場で泣きそうになるのを必死に堪え、
俯いた。
「須永・・・、と柊さん?」
その声にハッとして私は顔を上げ、
須永くんは私を掴んでいた手を離した。
「お疲れ様です。」
「こんなところで何してんだ?」
ーーーそっか、ここは2年の階だった。
「オレたちは・・・」
「すいません、図書室に用があって向かおうとしていたんです。行こう、須永くん。」
嘘に困惑している須永くんは樹先輩に会釈をして、
私の後をついてきた。
「ーーーいいの?誤解してるかも・・・」
「誤解も何も私、振られたんだよ?笑」
「ーーーそうだけどさ・・・」
納得してない様子の須永くんと私は視覚から隠れるように窓際に座った。
「ねぇ、授業戻ったら?チャイム鳴ってるよ?」
「柊は?」
「ーーー私はちょっと戻りたくないかな。」
「じゃあ一緒にいるよーーー・・・」
初めて授業をサボった、
人生で初めて、
クラスの男の子と初めてサボった。
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