【 君がいる場所 】#05. 少しずつ縮む距離*

君がいる場所

#05.

ーーーキンコーンカンコーンーーー

チャイムの音と同時に屋上を出た私は、
遅刻することなく一時間目の数学の授業に出たけど、
やっぱり数学はどう頑張っても理解するのが難しいな、って思った。

「はなーーー!!!りぃさ達とカラオケに行くんだけど、花も行く?」
「えっ・・・」
ちょうど私が帰り支度をしていると、環が私に向かって叫んだ。
それに驚いたのは私ではなく、一緒にいたりぃさちゃんたちの方だった。
環に視線を送る彼女たち、
えっ、誘うの?!と疑いの目を向けているのが遠くからでも分かるほど嫌そうな顔をしている。
「ゴメン、今日バイトなの!」
ーーーバイトじゃなくても私もお断りしますけどね、と思った。

環と入学式で仲良くなって分かったのは、彼女は誰に対しても対等に話をする。
第三者が嫌いだと言ってても自分はその子と話すまで苦手かどうか判断出来ない、と前に言ってた。
活発で明るくてクラスのムードメーカー的女子、バレー部の中でも先輩たちに可愛がられているのを私は知っている。
逆にりぃさちゃん率いるちょっと派手系の女子3人は入学当初から私を毛嫌い・・・というか苦手意識を持っているんだと思う。
中学から同じらしくていつも3人でつるんでいるりぃさちゃん達、
私も実は苦手だ。
この3人と環にどう繋がりがあるかは知らないけど、今日はカラオケに行くことになったんだって。
「えっ!私も行きたい!」
「俺も予定ないけど?!」
私が断ったのと同時に、他のクラスメイトが参加表明を出していた。
ーーー環が行くから行く、そんな感じだった。

賑やかな教室を出て私はバイト先に向かうーーー。
私は学校から数駅離れたこじんまりとしたカフェレストランでバイトをしている。
メガネの小太りの店長は気が弱くていつもへこへこしている、
大学1年の千花ちゃんはバイト歴が長くて店長よりもハキハキト物事を言う。
大学3年の弘樹くんは落ち着いていてしっかりしている、千花ちゃんの彼氏でもある。
他にも数名のバイト仲間で切り盛りしている私のバイト先。
唯一の高校生の私が働けるのは法律上は22時までだけど、
宿題とかの兼ね合いもあるので20時には上がらせてもらっている。
ーーーそれが土日を含む週5勤務、内の週末は長時間労働をしている。
平均のバイト代は9万弱だから、贅沢な暮らしは出来ないけどアパート代を支払って生活費を賄うにはちょうど良いバイト量なのだ。

学校帰りの学生、ちょっとゆっくりしたい社会人や年配の方、カップルや一人・・・
また近くに大きな外資系の会社があるからなのか、外国人のお客様も多い。
色々なお客様がこのお店にはやってくる。
ーーー私は土曜日の長期間労働を除いては平日勤務なので、夕方以降のお客様しか知らないけど、
騒がしいお店というよりもレトロ的で落ち着いた雰囲気のお店だと思う。
そんな雰囲気のお店が私は大好きだーーー。

「ふぅぅーーー・・・今日もよく働いた・・・」
20時にバイトを後にして改札を出た私は空に手を仰いだ。
「ーーー柊さん?」
目をつぶり、深呼吸していると私を呼ぶ声が上から降って来た。
「えっ・・・樹先輩・・・」
「なんで君がここに?」
「ーーーわたし、学校のすぐ近くに住んでて、今、バイトの帰りです(笑)先輩は部活ですか?」
「ーーー部活終わってから行きつけのコートでダチとバスケしてたんだ。」
「本当にバスケが好きなんですね(笑)」
「ーーー小学校からやってるからな(笑)」
「凄いですね!!!だから大きくなるんですね(笑)」
「ーーーそこは分かんねーけど。」
・・・苦笑いで返して沈黙が流れる。
「えっと・・・じゃあ私は宿題やらないとダメなので帰りますね。先輩も気を付けて・・・」
先輩を横切ってその場を去ろうとした私の腕をなぜか先輩がつかんで、
私は振り向く形で彼を見た。
「ーーー次のバイトの休みっていつ?」
「日曜ですけど・・・」
「ーーー須永がどうしても話したいって言ってたから、部活の後に会えたりする?」
あっ、先輩じゃなくて須永君ですかーーー。
なんて少しがっかりした自分がいた。
「大丈夫ですよ、どうすれば良いですか??」
「ーーー連絡先、教えてもらえたりする?そしたら部活終わったら連絡する・・・どうかした?」
私が目をまん丸く驚いていたのが表情に出てしまっていたようだ。
「いえ・・・先輩は学校の女子とは連絡先交換はしないと耳にしていたので、ビックリしているのと良いのかな、という・・・」
フッという笑いが聞こえて私は先輩を見た。
「ーーー確かに女子とは連絡先交換しないな、女子マネ以外、一人たりとも連絡先は知らないし(笑)でも誰からそんな噂・・・(笑)」
「だから・・・私なんかと交換してしまって良いのでしょうか?」
「じゃあどうすれば君に連絡できる、かね?」
「・・・ですよね、交換しましょう。」
先輩に特別な意味がないのは分かっているけど、少しだけ胸がくすぐったかった。
ーーーちょっと先輩に近づけた気がして。

まだ知り合って1ヶ月だし、
自分の中にある先輩に対する気持ちも好奇心であって恋ではない、
それは分かっているーーー。
でも好奇心が興味に変わってきているのは分かる。
ーーーあの時の・・・
あの日、先輩と出かけた日の無邪気な彼を見なければきっと目で追うことも好奇心を抱くこともなかった。
だから人と人の出会いは奇跡なんだなと思う。
だって私と先輩の出会いだってある意味・・・
先輩にとっては転ばされたし最悪な出会いだったと思う。

「引き留めて悪かった・・・」
「いえ、じゃあ日曜日に・・・」
「その前に明日だけど(笑)気を付けて帰れよ。」
「はい、先輩も。おやすみなさい。」
ーーー改札から見送る私に先輩は手を挙げた。
何かカップルみたい、
きっと恋人同士ってこうして毎日を幸せな気持ちで過ごしていくんだろうなと思った。

[ 無事に着いたか?また明日・・・]
お風呂から上がると先輩からのメールを受信していたことに驚いた。
[はい、先輩も無事故でしたか?おやすみなさい。]
初めてのメール交換、当たり障りのない内容だったけど・・・
少しだけ前進した、
そんな気がしたんだーーー。

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