【 君がいる場所 】 #02. 近づく距離*

君がいる場所

#02.

あれから知ったことが1つあるーーー。
樹先輩はどうやらとてもモテる人らしくて、窓際に座る私の席からちょくちょく呼び出されているのが嫌でも目についた。

確かに顔立ちもきりっとしている細長の一重、
背格好などを全部含めてかっこいい人だなぁとは廊下ですれ違うたびに思うようにはなった。
それに高校二年生のわりに大人びていて一つ上には見えない。

「ーーーおはようございます。」
「っはよ・・・」
環のミーハー情報によると特定の彼女は作らない主義らしい。
つまり特定じゃない人はたくさんいるってことなのかな?
ワタシには全く関係のないことだから、そこまでは聞かないけど。
ーーーでも環を含めて私たちも・・・
先日教室まで生徒手帳を届けに行った日から、顔見知りにはなったからすれ違えば会釈はするようになったんだよ。

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「よしっ!休憩にしようか!」
そして今日はリハビリの日ーーー、
学校を休んで月2回のリハビリに通っている。
足を負傷したあの日から、
日本に戻った6年前から大変お世話になっている病院だ。
「はーい。」
担当のOTである健太さんは現在28歳の新婚さん、彼がこの病院に来た時からずっとお世話になっている。
「足の動きの具合はどう?」
「感覚があるときとないときの差が激しいかな?最近は大きく2回も転んじゃった(笑)」
「ーーー緊張していたりすると鈍ってしまうことがあるから、そこをほぐしていけるようにも頑張ろうか。」
「はー-い!」
事故に遭ったときに、荷台が私の左足の上に大きく乗ったことで感覚を欠損した。
健太さんが言うように緊張だったり初めての場所に行ったりすると、感覚が鈍って転びやすいの。
ーーー学校側も事情は知っていてもちろん体育は全面免除、
このリハビリの欠席も快く送り出してくれている。
それもそのはず、誰にも知られていないけどこの学校の理事長が私の祖母だから。
ーーー私が親戚で唯一成人していないことや、色んな事情を考慮して祖母の管理元に置かれることになった。
「おばあさんとは会ってるの?」
「ーーー・・・電話で話しているくらいかな?反対を押し切って一人暮らしさせてもらったから会うのは申し訳なくて・・・」
「向こうは会いたいって思ってるかもしれないよ?」
おばあちゃんは私が高校入学する時に、自分で稼ぐからと一人暮らしをさせて欲しいという願いを最後まで承諾しなかった。
そりゃそうだ、
高校生という身分でいながら一人暮らしなんて非常識だと自分でも思う。
でも日本に帰国してから6年、おばあちゃんは私を大切に育て上げてくれていた。
自分の趣味だったお料理や園芸に華道、多くの時間を削減してまで私を寂しくしないようにと費やしてくれた。
次は・・・私がおばあちゃんに恩返しする時間だと思ったんだ。
ーーー自立する、まずはそれが恩返しだと思った私は高校入学前にバイトも決めたし、なるべく頼らない宣言までした。
それでも納得しなかったおばあちゃんとは若干気まずい空気が流れているまま時間だけが過ぎて、今に至る。
「ーーーだよねぇ。女心は大きくなっても分からないものだよね(笑)」
「おっさんか(笑)」
健太さんは年上だけど話を合わせてくれる、口調を合わせてくれるから話しやすい。
何だかんだ4年は一緒にいるし、何でも話せるお兄ちゃんみたいな存在になっている。
「ーーーってゴメン、ちょっと席外すね。次の工程表を持ってくるよ。」
「はーい。じゃあ私、トイレに行って来ても?」
「ーーートイレをダメとは言えません(笑)足元気を付けて。」
健太さんはリハビリ室のベンチを立ち、私もそのあとに続いた。

このリハビリテーション室は色んな幅の年代の方が通っている。
私みたいに定期的に通う方もいれば入院中の方もいる、
色んな世代がいるからこそ面白い話が聞けたりもする。
この前は隣でリハビリしていた5歳の女の子、
何をするにもママー!痛いーー!って泣いていて見ている方が辛かった。
ーーーその子に話しかけたら、幼稚園でマラソンの練習をしていたらスタート地点でお友達とぶつかって下敷きになっちゃったという不慮の事故なんだって。
担当の先生も何も触ってないのに泣いていてレントゲン撮るのも大変だったって言ってた。
痛い、とかの前に次に何が起きるのか予測が出来ないから怖いんだよねーーー。
なんていう話を前回していたのを思い出した。

「花ちゃん、トイレ行った?」
「あっ!今!今行ってきます!」
思い出にふけっていたら気が付いたらすでに健太さんが別のファイルを手にして戻ってきているではないか。
「何してんの、もう(笑)ゆっくりでいいから!」
健太さんと私の今の目標は日常生活に支障が起きないレベルの歩行だ。
歩行に問題があるわけじゃないけど、
感覚がなくなるときがあると転ぶ回数が増える。
精神的なものもあるのかもしれないけど、その転ぶ回数を減らすことを今の目標にしている。
「はー-い!」
私は笑顔で答えて小走りにリハビリ室を出てトイレに向かった。

用を済ませトイレから出たところで、まさかの人物に遭遇した。
目が合った瞬間に気が付いたけど、
私は気が付かない振りをして素通りをした。
ーーー幸い、向こうも何も言って来なかった。

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リハビリを終えた数日は私の調子はすごく良い。
ーーーそれは今に至ることではなくて、昔から。
だからきっと精神的な部分が大きいのかな、とは思ったりしているけど、何がどうダメなのかが分からないから私自身も迷路の中にいる。

「ーーー先生、昨日の欠席届けです。いつもすいませんーーー。」
「おお、次は月末だったな?」
「ーーーよろしくお願いします。」
昨日の欠席届を職員室に届けに行った。
毎回、億劫なのはこの作業だーーー。
きっと不要なんだろうけど、病院と学校との約束で毎回提出することになっている。

職員室を出て、教室までの道をまっすぐ歩く。
この学校は活発な生徒も多く、走り回っている男子生徒が多いから私は窓側をいつも遠慮がちに歩いている。
「ぎゃははははは!!!!受けるんだけど!!!!???」
「振ったらビンタ!?その女受けるな(笑)」
「日頃の行いが悪いんじゃねーの!?(笑)」
色んな声が飛び散ってくる、この賑やかさが心地良いとさえ感じる。
多分・・・自分にないものを持っている人たちに憧れているのもあると思うけど、
何だろう?
みんなの楽しそうな声を耳しているだけで昔の家族と暮らしていた時を思い出すの。
ーーーだからいつも耳を澄ましている。

ーーードンッ!ーーー
そんな時、背後から一人の男子学生が私の存在に気が付かなかったようにぶつかった。
「ーーーわり・・・」
急なことだったので私もその衝撃でバランスを崩して、床に転げ落ちるーーー・・・
そう思って目をつぶったら、何か柔らかいものに支えられた気がした。
「ーーー須永!前向いて歩けって何度言えば分かるんだ!」
「すいません!!!」
「ーーー大丈夫か?」
私の腹部を支えてくれていたのは樹先輩で、彼は私を立たせてくれた。
「・・・ご迷惑おかけしてすいません。」
「あいつは・・・いつも落ち着きがない、バスケ部の中でも特に。」
「でも私の不注意でまた転ぶところでした・・・」
先輩は私を見下ろして、職員室とメディアセンターの死角になる隙間・・・
誰にも目につかないところに私を連れて行った。
「ーーー昨日、病院にいたの、君だよね?」
「えっ・・・」
「トイレ付近で見かけて、見覚えがあると思って見に行ったらリハビリ頑張ってた。今、君だと確信したんだけど・・・」
「ーーー友達とかにもリハビリ通っていること話してないんです。体育も出れてないし定期的に学校休んでいるし不思議に思っているかもしれないけど、言うつもりないんです。」
「ーーー俺は誰にも言うつもりはないよ。ただ謝りたい、そう思った。」
「謝る?」
「ーーーあの日、俺は転ぶ君を見て笑ってしまった。」
「大丈夫です、全然気にしてないですよ。」
律儀な人だな、と正直に思った。
そんなこと気にしていられないし、今までも散々言われてきたから気にしていないのに。
「今日、放課後時間ある?」
「えっ、私ですか?」
「木曜はちょうど部活が休みの日で、お詫びと言ってはあれだけど・・・何かして欲しいことある?」
「いや、本当に・・・大丈夫ですし、気にしてないんで・・・」
「ーーー甘いものとか、好き?」
ーーー人の話を聞いていますか?
突っ込みたくなるほど自分の世界に入って、どこが良いかなぁ、と独り言を呟いていた。
その姿が異様に可愛く思えて、
一緒に出掛けても良いかな、なんて私も思ってしまった。
ーーー友達含め、学校の帰りにお出かけするなんて久しぶりだしね。
「・・・先輩がいつも放課後行っているところに行ってみたいです。」
「俺?」
「ダメですか?」
「ーーー良いけど、つまらないと思うけど?」
「つまらなかったら帰ります(笑)」
「・・・なら学校終わったら駅で。」
「でも!他の生徒もいますし、見られると・・・」
先輩は女子生徒から非常に人気だし、私なんかといるのが見られたら怖いーーー。
「駅の反対側にある商業施設分かる?その地下に図書館があるんだけど、そこなら大丈夫?」
「ーーーはい。よろしくお願いします。」
先輩はその返事を聞くと何も表情を変えることなく先に教室に行った。

ーーー何か急に先輩とのお出かけが決まってしまったんですけど?!
急に先輩との距離が近くなってしまったような気がするんですけど?!
大丈夫なんだろうか・・・。
変な不安を抱えながら、私はその日一日を過ごした。

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