【 中学聖日記_妄想 】#109. 5年後の覚悟*

中学聖日記_妄想

「ーーーありがとう。あんたが聖さんに出会えたことにきっと意味はあったんだね。あの時の母さんを許してね。優しい子に育ってくれてありがとう。」
母さんは未だかつてないくらい優しい顔で僕に言った、
その表情に逆に僕が泣きそうになった。

*

多分母さんは僕と聖ちゃんを完全に引き離してから心を痛めていたのかもしれない。
僕と彼女の関係を知ってから今まで見たこともないように毎日顔がこわばって一緒にいるのさえ苦痛だったのはきっとお互い様だったと思う。
それでも母さんは僕のためを思って鬼にでもなって僕と彼女を引き離したーーー。
母さんが聖ちゃんの想いを知って「あなたに何が出来る?」と僕に言った言葉は今でも忘れられないーーー。
僕はあの時、諦めるんじゃない。
絶対に大人になって認めてもらって迎えに行くと決めた。
特に母さんには一番近くにいてそれを認めて欲しかった。

「晶、よく頑張ったわね。」
本当は入社式が終わって少し落ち着いたら僕から切り出そうとしていた。
「これは・・・」
「もうあなたは立派な大人、わたしが持っているべきでもない。どうするか自分で決めなさい。」
母さんはそう言ってずーと金庫に隠していた聖ちゃんと弁護士さんの誓約書を僕に返してきた。
それを渡された僕はーーー、
母さんの前だというのに嗚咽が止まらないくらいに泣きじゃくったのを今でも覚えてる。
聖ちゃんを迎えに行ける嬉しさ。
違う。
そんなんじゃない。
母さんにやーと認めてもらえたことがどんなに嬉しかったか。
きっと母さんもそれを分かってた。
だからーーー、僕の思うまま泣かせてくれた。
「母さん、迎えに行ってくるよ。」
「分かってる、晶?彼女はもしかしたら誰かのものかもしれない、それを覚悟で行くの?」
分かってるよ、あんなに魅力的な人だから独り身だとは思ってない。
だけどーーー、会いたいんだ。
たった僕が一人愛した人だから、会いたいんだ。
「分かってる。全て覚悟の上で迎えに行ってくる。」
「そうーーー。なら・・・」
と小さな紙を渡され、そこには聖ちゃんの名前と現在いる場所の住所が記載されていた。

母さんがその連絡先をどう入手したのかは分からない。
正直そんなことどうでも良かった。
ーーーあと少しで会える。
「頑張れー!」と伝えた日から5年、
やーと迎えに行けると思ったら体がすぐに動いていた。

*

「パ・・・パ・・・?」
過去の想いを巡らせていたら澪が僕の顔を覗き込んでいることにハッとした。
しかも最悪なことに僕は頰から涙が伝っていた。
「ゴメン、いろいろ思い出してて・・・」
誰に言い訳してるのかも分からないまま僕は澪に苦笑いをごぼした。
聖ちゃんは僕を見ると少し微笑んで母さんと話し出した。
ーーー聖ちゃんは空気を読むのが上手なところがある。
きっと今この状況も察したんだと思う、
彼女は潤を連れて庭園の方に消えて行った。

ーーー僕は澪と、
そして母さんと3人で取り残される形となった。

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