迎えた日曜日の昼前、
僕は先輩たちを最寄の駅まで迎えに行ったーーー。
自宅に来るまでの間、
初めて会社の人を呼ぶ緊張感で何を話していたのか全く記憶にない。
*
「ただいま、帰ったよー。」
「お邪魔します」
という声でバタバタと聖ちゃんが奥から玄関に向かって小走りして来た。
「暑い中、遠いところありがとうございます。」
「こちらこそお招き頂きありがとうございます!」
先輩たちはいつもと違いとてもかしこまった様子でダイニングに向かいながら聖ちゃんと話していた。


ダイニングを見ると楽しそうにオモチャで遊んでる澪と潤、
僕の顔を見てニコッと笑いかけてくれたことが嬉しくて2人をぎゅっと抱きしめて結局泣かしてしまった。
「黒岩。これ、つまらないものだけど澪ちゃんと潤くんにお祝い。」
聖ちゃんが抱っこをして泣き止ませてもらい、
その隙を見て先輩たちは僕にお祝いを渡してきた。


と頂いた名前が入ったスタイとブランケットのセットを各々に渡すと本人たちもご満悦だった。
*
とりあえず子供達の機嫌が良いうちにご飯にしてしまおうということで僕たちはリビングに出しておいた大きなテーブルを囲うように座った。


飲み物や作った料理を出している聖ちゃんを僕は手伝ってやっと座った。
「落ち着いたところなので、奥さんのお名前を聞いても良いですか?」
と唯一女性の先輩が聖ちゃんに尋ねた。
「あっ、あき・・・主人がいつもお世話になってます。妻の聖と申します、よろしくお願いします!」
僕たちはご飯をつまみながら、自己紹介ーー。
僕が1番お世話になってる隣の席の先輩の向井さん、隣の部署で何かと関わりの強い太田さん、唯一の女性で総務の今井さんの紹介が終わった。
ーーーまるで合コンみたいだ、と思った。
聞かれたことに対して誠意ある態度を見せる聖ちゃん、
だけどあまり自分から突っ込んだ話をしない性格の彼女は少し戸惑ってるようにも見えた。
多分何を話して良いのかわからない、
でも無言に耐えられない、そんな感じだと思う。
「あっ、あのっ!」
「10歳年上って聞いてるんですけど本当ですか?」
聖ちゃんが何かを思いついたように話しかけた時、
ちょうど向井さんが聖ちゃんに問いかけた。
澪と潤の遊び相手をしてくれてる今田さん、
向井さんの隣に座る太田さんが驚いたように向井さんを見た。
僕も。
「ーーー本当ですよ。今年35歳になります。」
僕をチラッと見て聖ちゃんは微笑んで答えた。
向井さんは1番聖ちゃんに関心を持っていた人。
ーーー若いうちは遊べと言ったり、飲み会にも何かと誘ってきたり。
担任だった聖ちゃんを見たいとずーと言っていた人だ。
だから僕は嬉しい反面、この人が来るのは不安だった。
「担任だったって聞いたんですけど、黒岩と結婚することに迷いってなかったんですか?」
「迷いですか?迷いはなかったですね。」
「でも黒岩はまだ若いですし遊びたい時期、これからって時に結婚じゃないですか?それはなんとも思わなかったんですか?」
向井さんはいつになくすごい真剣な眼差しを向けていた。
僕は先輩を止めようと声をかけたけど聖ちゃんの言葉に消された。
「私たちは何度も引き離されてやっと思いが通じあったんですね。彼のこの先のことを考えると迷いがなかったのは嘘になるけど、彼の言葉を信じたかったし、それに結婚したことを後悔して欲しくないって思うようにはなりました。答えになってないですね・・・!」
「ーーー良かったです。黒岩の奥さんが聖さんのような人で。」
俯いてしまった聖ちゃんに向けられた言葉は、とても優しい言葉だった。
先ほどまでとは違う優しいトーンの向井さんの声を聞いた聖ちゃんは顔を上げた。
「えっ?」
「黒岩は入社当初から’早く大人になりたい、迎えに行くんだ’なんて話していて僕からすれば時間の無駄にしか思えなかったんですけど今、聖さんの気持ちを聞いて納得した気がします。僕たちには経験したことない強い想いで繋がれてるんですね。黒岩は本当に優秀です、僕たちも信頼しています。だから中途半端な気持ちの結婚ならってずーと思ってましたが、そうではなかったんですね。ーーー黒岩が頑張れるのも頑張れなくなるのも全て聖さんなんですね。」
「そこは自信あります!」
「黒岩を夢中にさせる聖さん凄いですね。ーーーあなたには人を引き寄せる魅力があると思いますよ。」
その言葉に聖ちゃんの横に座ってたオレは嫌な意味でドキッとした。
*
オレの予想していた通り澪と潤を口実に聖ちゃんと話したかったと向井さんは正直に言っていた。
そしてもう一言帰り際に言った。
「ーーーオレもあんな先生だったらきっと惚れてた。」
と。
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